組み体操でこどもにかかる力
2019/06/13
久しぶりに秋らしい晴天が続いています。運動会の開催もそろそろ終盤です。
大阪府八尾市で起きた組み体操(10段ピラミッド)における負傷事故からちょうど1週間が経ちましたが、文部科学省からの通達もなく、残念ながら余り変わった感じはしません。結局このまま「喉元過ぎれば熱さ忘れる」になってしまうのでしょうか。
組み体操ではこどもに大きな力がかかります
こどもにかかる力は、
- 体重
- ピラミッド・タワーの段数
- ピラミッド・タワーの形
- どの位置にいるか
によって大きく変わります。
10段ピラミッドの場合、基本形では0.2~4.2人分の体重がかかります。つまり、体重50kgだと仮定すると10~210kgの力(体重)がかかることになります。(名古屋大学大学院教育発達科学研究科 内田良准教授の計算結果を使わせて頂きました)
ピラミッドの外側で支えるこどもは最も負荷が少なく、中心、特に少し後方で支えるこどもへの負荷が大きくなります。それは外側のこどもには片側からしか力が加わらず、中心部は両側から力が加わることに加えて、人が四つ這いや立って前の人の肩に手を付いた体勢になった場合、手よりも足の方により多くの重量がかかることが原因しています。
組み体操では、静的な力よりも動的な力に注意をしなければなりません
組み体操の10段ピラミッドの場合、理論上場所によって0.2~4.2人分の体重を支えることになります。しかし、これはあくまで理論上ですので、形に歪みがあれば一か所に大きな力が偏ってかかる恐れがあります。
仮に6人分の力がかかるような場合は、300kgの力を四つ這いや立って前の人の肩に手を付いた体勢で受け止める必要があります。部活でかなり鍛えている生徒でも厳しい力になってきます。
ただ、形に歪みがある場合よりも、バランスを崩してピラミッドが崩壊する際の動的な力の方が心配です。そもそも静的な力を支えることが限界に近い場合、一人が崩れて動的な力が加わった時にそれを支えることができずに、ピラミッド全体が崩壊します。全体がバランスよく崩れる場合はまだしも、ピラミッドが崩れる場合は、最初に崩れた生徒が生んだ動的な力の伝播に合わせて崩れていきますので、一か所に落ち込むような形で崩れます。
大阪府八尾市の事故の場合も、下から6・7段目から崩壊が始まり、内側に崩れ落ちて行きますが、その上に8・9・10段目の生徒が更に落ちていく訳ですから、かかる力は想像を絶するものになるはずです。支えていた静的な力が200kgの場合、落下して地面でその動きが瞬間に止められた場合、重量の5倍程度の力がかかっているかも知れません。そう考えると瞬間ではありますが、生徒には1トンの力がかかってしまうことになります。これでは怪我をしないはずがありません。
文部科学省や大学主導で、一度専門的なシミュレーションをして欲しいです。
組み体操での教師の補助は外側への墜落しか補助できません
大阪府八尾市の事故では11名の教師が補助についていたと言われています。確かに動画には上を見守る教師が数名映っています。
しかし、ピラミッドの周囲でどれほど多くの教師が補助に入ったとしても、高い場所から墜落する生徒を怪我から守ることはできても、ピラミッドが崩壊する時に巻き込まれて起こる怪我を防ぐことは全くできません。
今回の事故でも補助に入った教師は何もできませんでした。
どれほどの補助をつけたところで、生徒の能力限界まで積み上がったピラミッドが崩壊する時は生徒の身体的な限界を超えた力が生徒を襲うことになります。そのリスクを教師の補助によって全くヘッジすることができないのであれば、ピラミッドは実施するべきではありません。
ピラミッドが崩れないことを前提にした安全管理などバカバカしいものはありません。どんなことをしてもピラミッドで怪我を防ぐことはできません。怪我をしない場合があれば、それは運が良かっただけ。逆に運が悪ければ死人がでます。
大阪府八尾市の中学校で起きた事故では、10段ピラミッドは練習で一度も成功していなかったと校長が公表しています。練習で一度も成功しないような危険な演技を、緊張によって普段の練習よりも事故のリスクが高まる本番で決行したのは、学校や教師のメンツだけを考えた愚行です。このまま単なる事故として処理されることなく、徹底した調査による責任の追及をして頂きたいと思います。それによってしか、こどもの安全を守ることはできません。
八尾市では昨年以降少なくとも12人が組み体操で骨折
毎日新聞が八尾市教育委員会を取材したところ、2014年以降組み体操の練習や本番で少なくとも12人の児童生徒が骨折していたことが分かりました。
亀井小学校では、先月3段タワーの練習中にバランスを崩して一番上から飛び降りた児童が腕の骨を骨折。補助の教員が2名いたものの受け止めることができませんでした。
大正中学校では、先月体育祭で行った10段ピラミッドが崩れて、6名が重軽傷(1名骨折)を負いました。大正中学校では昨年度も10段ピラミッドの練習中と本番とで合計4名が骨折しました。
八尾市の教育委員会の担当者は
「組み体操は仲間意識や団結力の向上、達成感を得られるが、今後は各校とも協議して高さや種目を見直すなど、安全対策を考えたい。」
出典:毎日新聞 2015年10月05日 15時00分(最終更新 10月05日 19時05分)
とまだ寝ぼけたことを言っています。
大阪府の松井知事は記者団に対して、
「去年の事故は報告が来ていない。(事故が相次ぐ中で)演技を続けたのであれば市教委が重大性を認識していなかったことになる。必要であれば府教委から指導助言していく。」
出典:毎日新聞 2015年10月05日 15時00分(最終更新 10月05日 19時05分)
とコメントしています。大阪府による指導を期待しています。
学校で起きた事故は日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度によって医療費が支給されますが、組み体操で起きた負傷事故に対する支給件数は、
小学校6349件 中学校1869件 高校343件(2013年度 全国)
と驚くべき数字になっています。給付を受けていないケースもあると思われますので、実際の件数はこれよりも多くなるでしょう。
八尾市だけではなく、全国の様々な学校でも事故が起きています。こどもも保護者も「危険だから組み体操はやりたくない」と思っていても伝統だからと押し切られ、無理やりやらされて、その挙句負傷事故が起き続けています。
八尾市だけではなく、その他の組み体操で起きた負傷事故は、明らかに学校の安全配慮義務違反による業務上過失傷害。このまま誰も責任を取らず、また来年も組み体操で事故が起きるのでしょうか。馬鹿げています。
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