ヤマカガシの毒はハブの10倍・マムシの3倍で国内最強
2019/06/12
ヤマカガシの危険性について2015年5月に過去記事「猛毒ヤマカガシ」でご紹介しましたが、再びこどもが噛まれる事故が発生しました。
この事件が発生したのは兵庫県宝塚市切畑長尾山の宝教寺の参道。当初は自宅近くの伊丹市荻野にある若松公園と見られていましたが、後に母親の勘違いであることが分りました。(恐らくは母親の勘違いではなく、こどもの嘘)
下が若松公園。近くに川もありますが、ヤマカガシが住むには厳しい環境かも知れません。
下が宝教寺。ここは好物のヒキガエルも多そうで、いかにもヤマカガシが住んでいそうな場所です。
今回のヤマカガシに噛まれる事故の問題点
今回ヤマカガシに噛まれた小学5年生の男の子は、友人と一緒に自宅から北へ約2.5キロも離れた市外(=学区外)の宝教寺まで
ヘビを捕まえるために
出かけたと言われています。
そして、午前10時半頃に宝教寺の参道でヤマカガシを捕まえる際に左手の人差し指を噛まれ、午後1時には友人宅で捕まえたヤマカガシをリュックサックから出そうとして再び右手首を噛まれました。
当初ヤマカガシに噛まれた事故現場と報じられた若松公園は、噛まれた場所からの出血が止まらないため、手を洗うために立ち寄っただけでした。
僕達がこどもの頃は男の子がヘビを捕まえるのは珍しいことではなく、今は昔のようにヘビを近所で見かける機会は少なくなりましたが、ペットショップやホームセンターでもエキゾチックアニマルの展示販売があるため、もしかすると昔のこども以上にヘビへの抵抗感が薄れている子もいるかも知れません。
僕がこどもの頃、まだヤマカガシは毒蛇だと認知されていませんでした。1972年にヤマカガシによる死亡事故があって毒蛇であることは判明。そして、1984年に愛知県で起きた死亡事故がニュースなどで取り上げられたことで毒蛇であるという認識は広がりましたが、マムシやハブと並ぶ「常識」にはなりませんでした。
それは恐らくヤマカガシが臆病で、奥歯にしか毒を持たないために、
- 滅多に噛まれない
- 深く噛まれない限りは毒が注入されない
ヤマカガシに奥歯で噛まれて毒を注入されてしまうには、
- ヤマカガシが命の危険を感じるような扱いをして攻撃させてしまう
- 手・足が比較的細い(≒こども)
- ハンドリングを誤る
などの条件が揃う必要があります。
僕がこどもの頃、ヤマカガシが毒蛇だという認識はありませんでしたが、毒蛇ではなくても、ヘビを掴む時には、たいていY字型になった(加工した)枝を使って頭を押さえて、その上で親指・人差し指・中指を使って捕まえるようにしていました。誰に習ったのかは知りませんが、ヘビを捕まえる時はそうするのはこどもの間でも常識でした。僕はY字の枝を使うのが面倒なので、左手で尻尾を引いて、鎌首を上げていないタイミングを狙って直接首を掴んでました。
おとな達はそれでマムシも捕まえていましたが、僕はマムシを捕まえたことはありません。なぜなら「病院に血清があるとは限らないから、マムシは絶対に捕まえようとするな!」ときつく言われていました。蛍狩り(※見物)に行けば「草むらで点滅しない光はマムシだから近づくな(※迷信?)」とか、瓦が積んでる場所に行けば「マムシの巣かも知れないから触るな」とか、「あの草原にはマムシの巣があるから立ち入るな」とか、ことある毎にマムシへの注意喚起がされていました。
最近はマムシどころか、ヘビ自体に接触する機会のない人が増えて、毒蛇に関する注意喚起をする機会がぐっと減ってしまっていると思います。今回も、こども達はヘビを取るために学区の外まで遠征して、いかにもヘビがいそうな兵庫県宝塚市切畑長尾山の宝教寺に行きました。
恐らく過去にヘビを見たか、または誰かから「ヘビがいる」と聞いたのかも知れません。
身の回りにヘビがいない環境が増えたとしても、少し郊外に出れば、今でもヤマカガシやマムシがいるヤブや畦などはたくさんあります。
ペットショップやホームセンターで展示販売されているヘビを見慣れた子達が、日本に生息する毒蛇に関する充分な知識を持たずに、無毒のペットとしてのヘビと同じような感覚でヤマカガシやマムシをハンドリングしてしまうと、噛まれて、命を危険にさらす恐れがあります。
やはり生活圏に毒蛇が生息していないとしても、日本に住む以上は、噛まれたら命に関わる恐れがある毒蛇に関する知識を持っているべきだと思いますので、周りの大人は責任を持ってそのことを伝えて行かなければなりません。
今回ヤマカガシに噛まれた小学5年生の男の子の場合、噛んだヘビがヤマカガシという猛毒のヘビだという認識は無かったようですし、一度噛まれて出血が止まらないにも関わらず、至急親に連絡することもなく、公園で血を洗い流して、それから更に1回噛まれています。
仮に噛んだヘビが無毒であったとしても、傷口からの出血が止まらない場合は病院で治療を受けるべきですし、もし出血が止まったとしても、ヘビの口腔内には危険な細菌が存在していますので、傷口から入った細菌によって感染症を起こす恐れもあります。
こども達に「毒蛇には近づかないように」と言うだけに留めずに、もっと具体的に注意喚起を行わなければ、同じような事故は再び起きるでしょうし、今回は偶然噛んだヘビを持ち帰ったために種類の特定がスムーズにできて、正しい血清を早いタイミングで打つことが出来ましたが、ヘビの種類が特定できない場合はマムシの血清が使用されてしまうことで手遅れになってしまう恐れがあります。
ヤマカガシとマムシなど毒ヘビに関する充分な知識を持たせましょう
ヤマカガシやマムシは、地域によって、または成長度合いによって模様・色が異なる場合があります。写真で説明する場合は1種類の写真だけを見せずに、色々なパターンを見せて、素人判断が危険なことを理解させると効果的です。(※キノコと同じ)
最後の動画では、ヤマカガシが体を平たくして威嚇しています。実はヤマカガシは奥歯以外にも毒が出る場所があります。それは頸腺と呼ばれ、首(?)にあります。体を平たくする威嚇ポーズは、毒の出る頸腺を目立たせるためだとも言われています。
万が一、頸腺から出された毒が眼に入った場合は、様々な急性症状を引き起こし、最悪の場合失明する恐れもあると言われています。(※この毒はヤマカガシが捕食したヒキガエルの毒を受け継いだもので、ヒキガエルを捕食したことがないヤマカガシにはこの毒がないそうです。)
毒ヘビだけではなく、無毒なヘビであってもむやみに触らない・捕まえないように教えましょう
ヤマカガシとマムシ(地域によってはハブ)が無毒なヘビのように見えている可能性もありますし、突然変異で色違いが生まれる可能性もあります。また、仮に本当に無毒なヘビであったとしても、ヘビの口腔内には危険な細菌がたくさんいますので、噛まれることで重篤な感染症を発症する恐れもあります。
毒ヘビは勿論、毒のないヘビも触らない方が安全です。
学区外へは勝手に出ないように改めて注意喚起しましょう
初期の報道では「伊丹市荻野にある若松公園」で事故が起きたとされましたが、後のこれが母親の勘違いであるとされ、宝塚市切畑長尾山の宝教寺の参道であったと報じられました。
母親の勘違いとされていますが、本当のところは学区外に出たことを叱られたくないこども達の嘘が原因ではないかと見ています。(※僕も似た経験がありますので。)何でもかんでもルールで縛り付けるのは良くないと思いますが、「学区から勝手に出ない」というルールにはそれなりの意味もあります。
夏休みということもあって気が緩んだのだと思いますが、これで命を落とさずに済んで本当に良かったと思います。今後は注意して欲しいと思います。
ヤマカガシには罪はありません
ヤマカガシはマムシ・ハブといった毒ヘビと異なり、攻撃性は低く、基本は臆病なヘビです。(※例外もいます)
毒は奥歯にしかなく、また毒腺を圧迫して毒を注入する筋肉がないため、噛んだ相手に毒が注入されない場合もあります。首にヒキガエル由来の毒を出せる頸腺もありますが、これは攻撃よりも急所(頭)を襲われたような時に使う最後の手段なので、基本は戦うことよりも、逃げることを選ぶヘビです。
今回のようなニュースが流れるとヤマカガシが悪者のように見られてしまい、こどもに石をぶつけられたりすることが心配されます。
田畑を荒らすねずみを捕食してくれる意味では益獣ですし、カエルやトカゲなどを捕食しながらも、自身はイヌワシ、クマタカ、モズなどの猛禽からシマヘビのような同類、そしてタガメのような昆虫にまで捕食対象にされながら頑張って暮らしています。
乱暴に掴んだり、叩いたりしなければ、原則人間に襲い掛かってくる可能性のないおとなしいヘビですので、その毒はハブの10倍、マムシの3倍と猛毒ではありますが、目の敵にせず、温かく見守ってあげて欲しいと切に願っています。
水田の減少によって大幅にその生息数を減らしているとも言われています。こども達がヤマカガシに関する正しい知識を持って、噛まれて危険な目にあうことを避けるだけではなく、ヤマカガシとうまく共存していける社会になるといいですね。
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