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36年連続1位の加賀屋で腸炎ビブリオ食中毒

      2019/06/12

食中毒は本当に怖いです。5月末に知人がどこかの河口でとってきたシジミで食中毒を起こしましたが、嘔吐や腹痛・下痢だけで済んでラッキーでした。最悪は命に関わる恐れもある食中毒ですが、今回はあの有名老舗旅館「加賀屋」で発生しました。

老舗旅館「加賀屋」で腸炎ビブリオによる食中毒

老舗旅館「加賀屋」と言えば、あの有名な「日本のホテル・旅館100選」に36年連続で1位に輝き続けている旅館です。その加賀屋で食中毒が発生したとはショッキングなニュースです。

石川県薬事衛生課によると、9月2日に宿泊した客6名が腹痛・下痢などの症状を訴えて富山県内で医療機関にかかり、医療機関からの報告を受けた石川県が調査を行ったところ、20~80代の男女の計15人に食中毒の症状がみられ、そのうち14人は医療機関で治療を受けていることが分かりました。

食中毒の症状があった15人のうち7人の便から腸炎ビブリオが見つかった

ため、能登中部保健福祉センターは本店のメインの厨房を9月6日から3日間の営業停止処分にしました。

石川県によると、15人は9月2日の夕食で、

  • 刺し身
  • 和牛朴葉焼き

などを食べており、原因の特定を進められています。

腸炎ビブリオ菌が生存・増殖するためには塩分が必要で、低温、高温、真水、酸による処理に弱いため、

  • 十分な加熱調理をする
  • 冷蔵庫で保存する
  • 調理前に真水で洗う
  • 酢の物にする

などの適切な調理をすれば食中毒を防ぐことが可能です。

ただ、いくら厨房を清潔に保ち、衛生管理も万全であったとしても、

魚介類の温度管理が不十分で仕入れた時点で既に腸炎ビブリオが大増殖してしまっていた

可能性があります。

この場合、十分な加熱調理(焼く・煮る)、真水で洗う、酢の物にするなどすれば腸炎ビブリオは死滅させられますが、刺し身など魚を生食をすることで腸炎ビブリオを体内に取り込み、食中毒を起こしてしまいます。

仮に生食をせずに、全て加熱調理をしたとしても、一旦腸炎ビブリオが増殖してしまうと、その過程で耐熱性溶血毒(加熱処理で一時的に毒性を失っても、アレニウス効果によって再び毒性を取り戻してしまう)を産出してしまうため、腸炎ビブリオ自体は死滅していたとしても、耐熱性溶血毒による食中毒を引き起こします。

今回、食中毒を起こした客の計15人のうち7人の便から腸炎ビブリオが検出されたことから、

  • 生食された食材が腸炎ビブリオで汚染されていた
  • 腸炎ビブリオで汚染されたまな板・包丁・手指などで別の食材を触れることで菌移りを起こした

ことが考えられます。

また、食中毒を起こした15人のうち8人の便からは腸炎ビブリオが検出されていないことから、もしかすると

腸炎ビブリオが算出する耐熱性溶血毒

による食中毒も発生していた可能性もあります。

腸炎ビブリオの増殖速度は想像を超えています

腸炎ビブリオが体内に入って食中毒を起こすには、

100万個以上の生きた菌

が口から入る必要があると言われています。これに対して、O-157大腸菌は100個程度の生きた菌が口から入ると感染、発症すると言われています。これを聞くと、危険性が低いと感じてしまいますが、そんなことはありません。

腸炎ビブリオは、食中毒を起こす細菌の中でも特に増殖が速い菌です。温度や塩分などの条件が揃った場合、10分で1回分裂します。10分で1回の分裂とは、たったひとつの腸炎ビブリオ菌が魚介類についていた場合、

  • 10分 2個
  • 20分 4個
  • 1時間 64個
  • 3時間 262,144個
  • 4時間 16,777,216個
  • 5時間 1,073,741,824個

と5時間後には10億個に増えています。菌がひとつだけということはありませんから、3時間も経過していれば食中毒に十分な菌数まで増えてしまっています。

腸炎ビブリオには細心の注意を払わなければなりません。

加賀屋の厨房の衛生管理や調理方法に問題があったのか、仕入れた時点で食材が腸炎ビブリオに汚染されていたのか、食中毒の原因が今後解明されることと思いますが、仮に仕入れた時点で食材が汚染されていたとしても、常にそのリスクも考えた上で調理を行うのがプロだと思いますので、「ランキングで36年間連続1位」の加賀屋でも反省と改善は必要だと思います。

ところで「日本のホテル・旅館100選」で36年間連続1位とはどういうことでしょうか?

実は加賀屋さんに泊まったことがあります。

料理も美味しかったですし、部屋も綺麗でしたし、スタッフさんのサービスも良かったですが、どんなことをしてでもまた行きたいと思う程ではなかったです。ただ、数十名の団体客をそつなくさばく能力に関しては加賀屋さんはすごく長けていると感じました。

「36年間連続1位」と言えば絶対王者のような存在ですが、本当にそうなのでしょうか。

確かに、今回の食中毒事故に対する対応は速く、直ぐにウェブサイトにお詫びが掲載されました。

2016/09/06 やどだより

お詫びとお知らせ

当社、加賀屋において平成28年9月2日(金)にご宿泊された複数のお客様より嘔吐・下痢などの症状が発生いたしました。管轄保健所による調査の結果、当施設内の一部厨房で調理をした料理を喫食されたお客様が食中毒であると診断され、同館内厨房が原因施設と断定されました。

発症されましたお客様には、多大なる苦痛とご迷惑をおかけし、また、日頃よりご利用いただいているお客様および関係者の皆さまには、ご迷惑とご心配をおかけしました事を心よりお詫び申し上げます。

当社といたしましては、この事態を厳粛かつ重く受け止め深く反省すると 共に、管轄保健所のご指導のもと、再発防止にむけて管理体制の再徹底および 調理場の清掃と洗浄、消毒の徹底、食材の廃棄、従業員の健康状態の確認と衛生教育を実施し、このような事態が再び発生することのないよう、食の安心・安全の確保と信頼回復に努力してまいる所存でございます。

【本件に関するお問い合わせ先】

株式会社加賀屋 お客様相談窓口

電話番号:0767-62-1111

受付時間:午前9時〜午後6時

出典:加賀屋ウェブサイト 加賀屋からのお知らせ やどだより

そこで「日本のホテル・旅館100選」について調べてみると意外な事実が分かりました。

「日本のホテル・旅館100選」とは、正式名称

プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」

と言って、「プロ」が付いています。

説明には、

プロが選ぶ

日本のホテル・旅館100選

旅行新聞新社が主催し、もてなし部門、料理部門、施設部門、規格部門において、旅のプロたちが審査・選考し、毎年認定しています。

出典:旬刊旅行新聞 プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選

とあります。

その「プロ」が誰かと言うと、

社団法人全国旅行業協会 経営調査部部長 菊地 辰弥
一般社団法人日本旅行業協会 国内・訪日推進部長 興津 泰則
現代旅行研究所 代表取締役 野口 冬人
旅行ペンクラブ 名誉会長 藤嶽 彰英
エム・ツー 代表 三堀 裕雄
株式会社 自由国民社 編集部次長 宮下 啓司
株式会社 交通新聞社 「旅の手帖」編集長 矢口 正子
株式会社 旅行読売出版社 専門委員 松田 秀雄
株式会社 旅行新聞新社 代表取締役 石井 貞徳
株式会社 旅行新聞新社 旬刊旅行新聞編集長 増田  剛

選考審査委員(順不同・敬称略・2015年1月現在)

というわずか10名の方々。良く分かりませんが、皆さん業界の方のようですから「プロ」なんでしょう。

日本で観光業界紙を発刊し、観光業界に関する情報を報道している株式会社 旅行新聞新社が主催し、業界のプロ10名を招集して、密室で行われている「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の選考会。

確かにプロかも知れませんが、たった10人で決めたランキング「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」がある程度の権威を持ち、様々なところで使われていることには疑問を感じます。

ちょうど今日「ウルトラチョップ」と「食べログ」とのやり取りが話題になっていましたが、食べログを運営するカカクコムが「自然検索で表示される点数及びランキングにおきましては、オンライン予約機能の利用是非に一切関係なく、これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております。」とネット予約機能に関する疑惑を否定するような発表を行いました。

食べログ

真偽のほどは不明ですが、これを受けてか、9月7日後場に大きく下落し、年初来安値を更新しました。

カカクコムの株価

食べログはレストラン選びの際に参考にさせてもらっていますが、時々「ん?」っていう評価もあります。高過ぎる場合もありますし、低過ぎる場合もあります。好みの違いかとは思いますが、点数の操作があるのでは?と勘ぐりたくなる時もあります。

インターネット時代になり、食べログを始めとしたありとあらゆるランキング(サイト)が乱立した感があります。

何かを選ぶ際に、ランキングやクチコミを参考にする訳ですが、どんな基準で点数が付けられているのかも知らずにランキングを信じてしまっている自分がいて、ちょっと反省しています。

自分が信じるかどうかは自由ですが、そのランキングについて人に話をする時には今後十分注意します。

かつて加賀屋さんに泊まった時、

プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選で連続1位の加賀屋

と人に説明してしまいましたが、軽率でした。

その後の対応

9月9日に加賀屋の公式サイトで「やどだより」が更新されました。

2016/09/09

お詫びとご報告

平素より和倉温泉加賀屋に格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

当社、加賀屋において9月2日に発生致しました食中毒事故に関して、発症されましたお客様には多大なる苦痛とご迷惑をおかけし、また、日頃より加賀屋をご利用いただいているお客様をはじめ、多くの関係者の皆さまにご迷惑とご心配をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。

その後の経過について、下記のとおりご報告させて頂きます。

石川県能登中部保健福祉センターによる調査の結果、本件は腸炎ビブリオを原因とする食中毒であったことが判明し、同センターからの食品衛生法に基づく処分に基づき、当社では9月6日から8日までの3日間、加賀屋本店の主厨房について使用を停止いたしました。

この間、当社では、石川県能登中部保健福祉センターの指導の下、外部の専門会社の協力も得て、再発防止に向けて以下のような改善措置を実行し、徹底いたしました。

 − 主厨房内の食材の廃棄

 − 主厨房内および厨房設備・什器等の清掃・消毒・点検

 − 調理に際してのルールの見直し

 − 従業員の健康状態の確認と従業員に対する衛生管理教育の再徹底

以上の措置の結果、衛生管理面での安全性が確認できたものとして、石川県能登中部保健福祉センターより9月9日0時に主厨房の使用停止が解除されました。

当社といたしましては、今回の事態を厳粛かつ重く受け止め、深く反省するとともに、今後は、安全な食材を万全の衛生管理の下でご提供できるよう、再発防止に向けて、より一層の衛生管理水準の向上を図り、お客様の信頼回復に向けて全社一丸となって努力いたす所存でございます。今後とも変わらぬご愛顧、ご支援を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。

平成28年9月9日

株式会社加賀屋

代表取締役社長 小田 與之彦

出典:加賀屋ウェブサイト 加賀屋からのお知らせ やどだより

加賀屋本店の主厨房の使用停止が解除され、現在は通常営業に戻っています。

  • 石川県能登中部保健福祉センターの指導
  • 外部の専門会社の協力

の元で

  • 主厨房内の食材の廃棄
  • 主厨房内および厨房設備・什器等の清掃・消毒・点検
  • 調理に際してのルールの見直し
  • 従業員の健康状態の確認と従業員に対する衛生管理教育の再徹底

という対応を文字だけみると「これなら大丈夫かな」と思ってしまいますが、よくよく読めば非常に当たり前のことしか書いてありません。

今回の食中毒の原因は「腸炎ビブリオ」と確定しましたが、これは当初から病院で診察・治療を受けた複数の患者さんから腸炎ビブリオが検出されていたため、ほぼ確定していました。

非常に重要なのは、どの食材が腸炎ビブリオに汚染されていたのかということ。

腸炎ビブリオの特性上、関係する食材はかなり限定されます。

それに対して、

主厨房内の食材の廃棄

が必要だったのか微妙です。リスク管理会社が「食材の全廃棄で姿勢を示した方がいい」とアドバイスしたのかも知れませんが、腸炎ビブリオに関係しない食材まで捨てるのは褒められた行為ではないと思います。

食材の全廃棄よりも、どの食材が腸炎ビブリオに汚染されていたのかを徹底的に検証するべきではないでしょうか。

関連する食材を全て使い切ってしまい、残った食材を検査しても一切腸炎ビブリオが検出されなかったものと思われますが、

食中毒を起こした客に共通する食材を徹底的に追跡

することはされたのか気になります。

1950年に大阪で起きた腸炎ビブリオによる大規模食中毒ではシラス干しが原因になっています。腸炎ビブリオは低温、高温、真水、酸による処理に弱いため、シラス干しでは死滅している(※腸炎ビブリオは死滅しても、耐熱性溶血毒は残ります)はずですが、この事件では腸炎ビブリオが残って感染を起こしました。

今回の食中毒が加賀屋での調理過程で

  • 食材を冷蔵庫から出して、調理するまでの間、長時間常温に晒した
  • 食材を調理後、長時間常温に晒した

という忌避行為を犯してしまった可能性もありますが、加賀屋では少し考えにくいと思います。(とは言えヒューマンエラーはゼロにはできないため、「調理に際してのルールの見直し」は不可欠です)

食材が納入される時点で腸炎ビブリオが危険なレベルにまで増殖してしまっていた可能性が低くないため、食材を納入する業者の衛生管理状態についても確認を行い、必要に応じて業者の選定見直しを行う必要もあるかも知れません。

この時期、生の海産物は全て腸炎ビブリオに汚染されていると思った方がいい位ですから、温度管理には非常にシビアにならなければ危険です。加賀屋内だけではなく、食材を納入する業者さんとのリスク管理意識を共有して、共に食中毒防止に努めて頂きたいと思います。

 - 健康, 生活, 病原菌, 食中毒, 食品

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