旭化成建材による杭打ち不正問題
2019/06/13
今年は旭化成にとって最高で最悪の1年になることでしょう。台風18号による鬼怒川堤防決壊による濁流にも耐えたへーベルハウスが奇跡の白い家として注目を集めた翌月には、横浜市のマンション傾斜問題で杭打ちを請けた業者として悪い意味で注目を集めてしまいました。
杭打ちは旭化成建材が請けています
旭化成グループには違いありませんが、
- 杭打ち:旭化成建材
- へーベルハウス:旭化成ホームズ
と法人が違います。
でも、ヘーベルハウスに使うヘーベルという壁材などは旭化成建材が製造していますので、ヘーベルハウスに対する信頼感にも傷が多少なりとも付いてしまいますが、今回の事件は杭打ちだけに止まり、他の製品やサービスには影響はないはずです。
旭化成グループの中でも、旭化成建材株式会社(工事の規模によっては旭化成基礎システム株式会社が請けている可能性もあります)のパイル・地盤改良部門が担当しています。大きなグループ企業の中の限られた部門での話です。
ですから、今回の不正がへーベルハウスなどの建築資材製造に影響を及ぼす可能性はありません。
限られた部門で起きた話が無限の広がりを見せ始めています
最初は傾いた横浜のマンションだけだろうと思われましたが、同じ担当者が関わった他の建物でも杭打ちに不正が見付かり、雲行きが怪しくなってきました。
旭化成建材が請けた杭打ちを調べていくうちに多くの不正が見付かり、影響はマンション以外の建物にも広がり、そして地域的にも全国に広がって行っています。
10月30日朝に産経新聞が報じた
データ改竄常態化 旭化成建材下請け元職人が証言「記録ミスごまかすしかなかった」(産経新聞 10月30日(金)7時55分配信)
という記事では、旭化成建材の下請け会社に30年間杭打ちの重機オペレーターとして勤務していた元くい打ち職人の70代の男性が産経新聞の取材に応じて、業界が抱える問題の一端が明らかになりました。
男性によれば、杭打ち作業でデータを記録することは「絶対」であったものの、何らかの理由で必要なデータが取れない場合もあるそうです。
- 記録開始スイッチの押し忘れや記録紙のセット忘れなど人為ミス
- データを記録する機械の不良
などによって、データが取れない場合が発生するそうです。
また、
- 用意した杭が短くて、杭が強固な地盤に届かなかった
- 波形が弱いなど理想的な記録が取れなかった
- 大きな石があるなど地中障害が見つかった
などの理由でも、本来正常に杭を打てた場合に取れるデータが取れない場合があります。
そんな場合は、波形を記録する機械に使用されるものと同じ特殊なインクを使ったペンで別の記録用紙の波形を写し取ったり、修正液で消した上に波形を書き直したり、波形が似ている別の記録用紙を提出することもあったそうです。
元請け会社にはコピーを提出するので、改竄は分かり難くなっていますが、そもそも元請け会社から、
- 「もっといいもの(データ)を出せ」
- 「何とかしろ」
と言われることもあったということですから、元請け会社(の担当者)も事情を知ったうえで、お互いに暗黙の了解で動いていたということです。
ただ、この男性が担当していた現場では、杭の長さが足りず、強度不足が予測される場合は、杭の本数を増やして、全体で設計時の強度を満たせるように「現場合わせ」をしていたそうです。建築業界に「現場合わせ」は付き物です。
この「現場合わせ」に不正が入り込む余地がありました。
これは旭化成建材に限った話ではなく、おそらく業界全体にかかわる問題です。今は旭化成建材が関わった建物・地盤工事を洗い出していますが、今後他の業者が請けた仕事を洗い出すと更に悪質な工事も見付かるはずです。
悪しき伝統を無くすいい機会にしてください
どこの業界にも悪い伝統はあります。新人の頃に疑問を抱いたことでも、次第に業界内の「暗黙の了解」に慣れて、やがて自分でも同じことをし始めます。
- 歯科医の衛生管理
- 保険代理店が手数料の高い商品ばかりを販売する
- 賃貸物件の敷金
- 飲食店で廃棄対象の食材を調理して提供
- 学習塾の施設維持費 などなど
どこの業界にもあるはずです。
建築業界の杭打ち部門においても、
- データが取れないのはおかしい
- 杭が固い地盤に届かないのは問題だ
と若い社員は感じるはずですが、やがて感覚がマヒしてしまい、自分もデータ改ざんに手を染めてしまいます。
- 記録開始スイッチの押し忘れや記録紙のセット忘れなど人為ミス
- データを記録する機械の不良
によってデータが取れないというミスを無くすための努力がどれほどされたのでしょうか。「そんなことは無理だ」「若造が偉そうに」で片付けてきたのかも知れません。
- 用意した杭が短くて、杭が強固な地盤に届かなかった
- 波形が弱いなど理想的な記録が取れなかった
- 大きな石があるなど地中障害が見つかった
自然が相手ですので、準備していた杭が短くて固い地盤に届かないであったり、大きな岩があって杭を十分に打ち込めないという事態は必ず発生します。そんな事態が発生した時にどのように対応すべきかをもっと詰める必要があります。
目的は「杭打ちの綺麗な記録用紙を集めること」ではなく、建築物や地盤の強度を設計通りにすることです。その為に何をすべきかを考えれば答えは見付かるはずです。
正しい感覚を持った現場担当者は今までも求められる強度を得るために、
- 杭が短くて、固い地盤に届かない→杭を追加や杭の注ぎ足し
- ミスや機械の不良でデータが取れない→杭の状態の事後調査や杭の追加
などの「現場合わせ」をしてきました。しかし、正しい感覚を持ち合わせない人が「面倒だから」「追加のコスト・時間が掛かるから」と強度が不足したままで工事を終える場合も考えられます。今回の横浜のマンションは施工不良の杭が8本もあり、現場合わせではなく、悪意のある不正です。そんな不正を排除するには、「現場合わせ」の余地を極限まで減らすか、「現場合わせ」を正しく記録する以外にありません。
今回の事件で、旭化成建材だけではなく、建築業界も信用を失い、大きな傷を負うことになります。これは膿を出して、業界の体質改善をする大手術だと前向きにとらえて、積極的に調査実施と今後の改善努力を行って欲しいと思います。
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