給食で食中毒 賞味期限5ヶ月過ぎたサンマ使用
2019/06/12
給食で87人が食中毒 消費期限切れのサンマが原因
1月21日、福島県下郷町の小中学校で、消費期限が5ヶ月切れたサンマが学校給食に出され、87名という大量食中毒事件が発生しました。今回大量食中毒事件を起こしたのは、株式会社郡山水産の関連会社の株式会社「若松魚類」。
消費期限が5ヶ月過ぎていることを知っていながら、福島県会津若松市の「若松魚類」はサンマを出荷していました。福島県はこれを受けて、「若松魚類」を1月23日より2日間の営業停止処分を命じました。
87人もの食中毒を出しながら2日間の営業停止では軽過ぎるという印象もない訳ではありませんが、恐らくこの後は受注量の減少や学校への納入停止など社会的制裁が起こると思いますので、軽過ぎる訳ではないのかも知れません。
若松魚類は、
- 2015年8月27日:サンマの冷蔵すり身45キロを仕入れた
- 2015年8月28日:消費期限は8月29日までだったにも関わらず、担当者が表示ラベルを剥がし、冷凍保存にした
- 2016年1月21日:45キロのうちの14キロを別の業者を介して下郷町の小中学校に納品し、すり身を焼いて給食として提供
この焼いたすり身を食べた教員3人を含む87人が発疹や頭痛などのアレルギー症状を示しましたが、幸いにも大事には至らず、全員が快方に向かっているそうです。
福島県の調査に対し、若松魚類は
- 担当者がもったいないと思ってやってしまった。
- 冷凍すれば大丈夫だと思ったようだ。
と供述しています。
こどもが食べる学校給食に対してこの感覚は問題です。(給食以外でも問題ですが。)
残ったサンマのすり身からヒスタミンが検出されました
サンマによるアレルギーと聞くと、2015年10月にAKB48・SDN48の元メンバーでタレントの大堀恵さんが、サンマを食べたことでアナフィラキシーショックを起こして夜間の救急病院へ駈け込んでいたことが思い出されます。
魚のアレルギーと言えば、
鯖アレルギー
が有名ですが、実は鯖を食べてアレルギー症状がでた全ての人が鯖アレルギーがある訳ではなく、中には鯖に付着した細菌が生成するヒスタミンが引き起こすヒスタミン中毒(アレルギー様食中毒)も結構多いんです。(過去記事「さんまを食べてブツブツ これってアレルギー?」を読んでみてください)
ヒスタミンという言葉は余り馴染みがありませんが、アレルギー性鼻炎の薬の説明に「抗ヒスタミン」と書かれているのを見たことがある方もいるかも知れません。花粉などでアレルギー症状が出ている時、人間の体内ではヒスタミンが生成され、それが症状を起こしています。
今回の食中毒は、花粉などのアレルゲンが人の体内でヒスタミンを生成してアレルギー症状を起こすのに対して、サンマのすり身の中で生成されたヒスタミンを口から体内に入ることで引き起こされたアレルギーに似た食中毒であるため、
- ヒスタミン中毒
- アレルギー様食中毒
と呼ばれています。
サンマのすり身でヒスタミンが生成される仕組み
サンマ以外に、魚アレルギーの王様のサバ、そしてイワシなどの赤身の魚は人間が食物から摂取をするべき必須アミノ酸9種類のうちの1つ、ヒスチジンを豊富に含みます。このヒスチジンは、体内の酵素が化学反応を起こす時の中心的な役割を担う重要な物質です。赤身の魚を食べると健康にいいと言われるゆえんです。
しかし、このヒスチジンを分解してヒスタミンを生成する細菌がいます。
- Morganella morganii (モルガン菌):腸内細菌
- Klebsiella oxytoca など(腸内細菌):腸内細菌
- Photobacterium phosphoreum(好塩性):海洋性細菌
- P. damselae(好塩性):海洋性細菌
サンマやサバを水揚げした時点で海洋性細菌のヒスタミン産生菌が付着し、温度など条件が揃うと増殖し、必須アミノ酸のヒスチジンからヒスタミンを生成します。また、加工の段階で手指についた腸内細菌のヒスタミン産生菌が、ヒスチジンからヒスタミンを生成してしまいます。
ヒスタミンを生成する細菌の増殖とヒスタミン生成に必要な条件とは主に温度なんですが、ヒスタミン産生菌には
- 25℃~40℃で発育する菌(中温細菌)
- 0℃~10℃でも発育する菌(低温細菌)
がいますので、常温下で保管されれば確実にヒスタミンが生成されてしまいますが、冷蔵庫の中であっても生の赤身魚や赤身魚の干物を長時間保存するとヒスタミンが生成される恐れがありますので、注意が必要です。
今回は、
- 2015年8月27日:サンマの冷蔵すり身45キロを仕入れた
- 2015年8月28日:消費期限は8月29日までだったにも関わらず、担当者が表示ラベルを剥がし、冷凍保存にした
- 2016年1月21日:45キロのうちの14キロを別の業者を介して下郷町の小中学校に納品し、すり身を焼いて給食として提供
と、消費期限が切れる前に冷凍保存していますので、理論的には0℃~10℃でも発育する菌(低温細菌)でもサンマのすり身内で
- 増殖
- ヒスチジンからヒスタミンを生成
をすることが出来ないため、安全に食べられるように思えます。若松魚類の担当者もそう考えたのかも知れません。8月29日までの消費期限は「冷蔵」状態でも消費期限なので、冷凍すれば消費期限を延長することができると考えたと想像できます。
理論的にはそうなりますが、サンマをすり身にしたことで、
- 表面に付着していたヒスタミン産生菌が身としっかり混ざってしまった
- 処理過程で処理を行った人の手についていたヒスタミン産生菌が新たに付着した可能性がある
で、ヒスチジンがより多く生成される条件が揃ってしまったことに加え、
- 冷凍と解凍を行う間に常温に晒される時間ができてしまい、その間にヒスチジンから多くのヒスタミンが生成された
という要素が重なったことで、今回の大量食中毒事件を引き起こしたものと考えられます。
サンマによるヒスタミン中毒(アレルギー様食中毒)を防ぐために
一度生成されたヒスタミンは煮ても焼いても消滅しません。食べれば食中毒を起こします。若松魚類の担当者がヒスタミンに関する知識がなく、
- 冷凍すれば消費期限を超えて長期保存が可能
- 加熱調理すれば食中毒は防げる
と安易に考えた可能性があります。
サンマや鯖などのヒスチジンを含む魚による食中毒を防ぐには、
- 消費期限は必ず守り、残ったものを冷凍保存せずに必ず使い切る
- 常温にさらす時間は極限まで少なくする
- 衛生管理を徹底して、手指からのヒスタミン産生菌の菌移りを防止
- すり身はヒスタミンが生成されやすいため、特に取り扱いに注意する
に気をつけましょう。
ヒスチジンからヒスタミンが生成されないように注意して、安心、安全にサンマ、鯖を食べましょう。
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