破傷風菌 芽胞による長期潜伏に要注意
2019/06/13
錆びた釘などを踏み抜いた傷は破傷風に注意しなければならないという知識は保健体育でも習った気がします。とは言え、身近で破傷風にかかった人がいる訳でもなく、「震える舌」を読んだり、映画を観たりした人でない限りは遠い存在に感じても仕方がないと思います。
でも、破傷風菌自体はどこにでもいる菌で、土の中だけではなく、家の中にもそこら中に存在していますし、根野菜を通じて腸内にもいてもおかしくありません。普段は発症しない破傷風菌ですが、もし発症してしまうと死亡率は50%(成人で15〜60%、新生児は80〜90%)と高く、非常に危険な感染症です。
そんな恐ろしい破傷風菌ですが、もっと恐ろしい事実が隠れている可能性があります。
芽胞になった破傷風菌は長期間死にません
破傷風菌は非常に怖い菌ですが、嫌気性と言って酸素を嫌います。嫌うだけではなく、酸素に接すると死んでしまいます。
破傷風というと「錆びた釘」を思い出しますが、錆びた釘についた破傷風菌が体の深いところに送り込まれることで感染が成立します。入口が狭く、傷が深いと感染しやすいのですが、擦り傷や浅い切り傷では酸素と触れてしまうため、破傷風菌は増殖も出来ずに死滅してしまいます。
日常生活で、そうそう錆びた釘を踏む訳ではないので安全かと思いきや、実はそうではないんです。
破傷風菌自体は嫌気性で酸素がある環境では増殖はおろか、生きていくことができません。しかし、酸素がある都合の悪い環境では芽胞という殻で守られた状態になって、再び自分に都合がよい環境が整うまで潜伏することができます。芽胞になるとかなり長い期間潜伏することが可能だと言われています。長いってどの位なのでしょうか。数週間?数か月?もしかして数年?いいえ、数十年と言われています。
芽胞となって潜伏を始めた破傷風菌は、環境が嫌気的になるのをひたすら待ち続けます。
原因不明の破傷風発症の原因は潜伏する芽胞かも知れません
余り衛生的ではない場所での出産で新生児破傷風に感染するリスクが高いと言われています。発展途上国に多いのですが、へその緒を切る時に破傷風菌に感染し、発症すると考えられています。
しかし、万全の衛生管理がされた手術室で行われた手術や歯科治療で破傷風を発症するケースが見られ、その感染経路が謎とされてきました。
もしかするとそれは色々な経路で取り込まれた破傷風菌の芽胞が発芽したせいかも知れません。
- 土いじりで手の細かい傷から侵入
- 転んだ時に出来た小さな傷から侵入
- 食物中の芽胞が口腔内や消化管の傷から侵入
- スポーツ中などで呼吸が荒くなった時に肺に侵入
色々なケースが考えられますし、どれもあり得ると思います。
このような場合は侵入したその場に留まると思いますが、もしかすると血液に乗って体内の他の場所に運ばれる可能性もあるかも知れません。
- 赤血球の大きさは7~8μm×2μmで、
- 破傷風菌の芽胞の大きさは3〜6μm×0.3〜0.6μm
ですから、血管内に入って移動することはできそうです。ですが、血液内では白血球に食べられてしまいます。白血球に襲われるのを防ぐ莢膜(きょうまく)を持たないので、逃れることは難しそうです。ですが、芽胞の状態で白血球の攻撃を逃れる方法を持っていたりすると恐ろしいです。
できるだけ破傷風菌の芽胞を体内に取り込まないようにする方が安全です
万全の衛生管理がされた手術室で行われた手術や歯科治療で破傷風を発症するケースがどのようにして起こるかが分かっていませんので、体内に潜伏した破傷風菌の芽胞によって引き起こされた可能性を消すことはできません。
人間が少し位の傷で死んだりせずに生きていられるのは素晴らしい免疫システムのおかげです。「化膿しなかったのは菌が入らなかったせいで、化膿したのは菌が入ったせい」って思ってしまいますが、本当はほとんどのケースで菌はガッツリ入っています。膿む・膿まないはかなり体調次第だったりします。人間が死んだ瞬間から腐敗が始まっていくように、ひとが菌に侵されずに日々を送れるのは免疫のお陰です。
ですから、カビの胞子、菌の芽胞、中には菌自体が体内に入っても、簡単には病気になりません。免疫によって死滅させられたり、消化管で溶かされたり、色々な形で病原菌は消滅しますが、その一方で色々な形で体内に残ってしまうものもあります。
肺に吸い込んだカビの胞子や傷口から入った芽胞、または日和見感染として皮膚や体内で軽く感染した状態で共生状態になってしまうものもあります。若く健康な時は問題ありませんが、加齢や体調不良、または手術や投薬などで免疫機能が下がった時に、潜伏していたものが暴れだす恐れがあります。
どんなに注意してもこれらのものを体内に取り込まないでいる方法はありません。それは破傷風菌の芽胞も同じです。ですが、リスクを少しでも減らすために、体内に取り込んでしまう芽胞を減らす努力をする方がいいでしょう。
負傷した場合は傷口の適切な処置を行いましょう。まずは砂や埃などと共に芽胞をしっかり洗い流すことが重要です。後は湿潤療法(モイストヒーリング)で最短で患部の治癒を心がけましょう。
また、素手で土いじりをすると微細な傷口から破傷風菌の芽胞が侵入する恐れがあります。必ず手袋を着用の上で作業を行いましょう。また、芽胞を吸い込んだり、目から侵入する恐れもあります。土いじりをする時は、短い時間であっても、保護メガネとマスクの着用を忘れないでください。
発症することはまれですが、発症すれば50%の確率で死に至ります。そんな菌の芽胞が直ぐ近くにあることを忘れず、できる対策は行っていきましょう。
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