乾燥熟成肉と腐って乾燥した肉の違い
2019/06/13
今話題の乾燥熟成肉。「ドライエイジング」や「ドライエイジド」とも呼ばれますが、新しい手法ではなく、食肉文化圏で冷蔵庫が無かった時代に肉を保存して、美味しく食べる方法として編み出されたものです。日本ではバブル期に流行りましたが、乾燥させることによる重量減とカビが発生した表面を削ることによる容積減が大きく、元の重量の6割以下になってしまい、更に保存や加工に手前もかかるため、バブル崩壊後は余り見られなくなりました。ブーム再燃という感じです。
肉の熟成とは何でしょうか
肉の熟成には
- 乾燥熟成(ドライエイジング)
- 真空熟成(ウェットエイジング)
があります。
牛肉でよく行われるのはドライエイジングで、牛肉の大きな塊を乾燥熟成庫内に一定期間貯蔵します。庫内の温度は0~4℃、湿度は80%前後に保ち、肉の塊の空気が常に流れるような環境を維持します。その中で14~35日間(またはそれ以上)保管することで肉は「熟成」という状態になります。
腐敗とは腐敗させる原因となる微生物などが増殖することで起きます。その腐敗菌などを最大限排除した上で腐敗菌が増殖しにくい環境を維持することで、腐敗させずに、肉内部に元から存在している酵素がたんぱく質を分解してうまみ成分であるアミノ酸を産出、また乾燥させることでそのうまみが凝縮した肉が「熟成肉」と呼ばれるものです。
肉の熟成に微生物が関与しているかどうかは不明です
「熟成肉」で検索すると「酵素と微生物の力でたんぱく質を分解してアミノ酸に」という説明が多いのですが、実際のところ熟成に微生物がどの程度関わっているのかは良く分かっていないようです。
本来、
- 熟成:肉の内部の酵素がたんぱく質を分解
- 発酵:外部の微生物などがたんぱく質を分解
ですので、酵素による熟成だけではなく微生物などによる発酵が組み合わさった複合型の「熟成発酵肉」もあるのかも知れませんが、単に「熟成肉」という場合は酵素の働きによるものであると考えた方がいいと思います。
素人が安易に加工するのは止めましょう
「乾燥熟成肉」と「腐って乾燥した肉」は紙一重です。しっかりした管理をしなければ、せっかくの美味しい肉が「腐って乾燥した肉」になってしまいます。
増殖した菌の種類によっては食中毒を引き起こす場合もありますので、個人で安易に手を出すべきではありません。またネットで得た情報を元に見よう見まねで処理して店に出すところも出るかも知れません。「乾燥熟成肉」を食べる場合は、よく見極めて決めましょう。
魚の熟成も注目されていますが妄信は危険です
魚の熟成と言えば干物ですね。まさに乾燥熟成されています。また、くさやは微生物による発酵も加わっているため、「乾燥熟成発酵」されています。
ただ、干物にせず、水分量が多いまま保存して、酵素によってたんぱく質を分解させ、より味わい深く、柔らかい魚をネタにした寿司を出す人気店があります。
ただ、寿司ネタは牛肉と違って乾燥させる訳にはいかず、また微生物などが増殖した表面を牛肉のように削ぐことができないため、適切に処理をしないと食中毒を起こす危険性があります。
ブームに乗って、「熟成=長期放置」だと勘違いした店が出す寿司で食中毒にならないよう、熟成魚を謳う店で食べる時は注意しましょう。海の魚に多い腸炎ビブリオは冷蔵保存をしていれば食中毒を起こすほどに増殖はできませんが、エルシニア・エンテロコリティカは5℃以下でも増殖が可能ですので「低温熟成だから大丈夫!」ということはありません。
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