原三信病院へのプリウス突入事故の原因
2019/06/12
ブレーキシステムの検証やEDR(事故データ記録機)の解析から容疑者の操作ミスであったという判断がなされましたが、事故直前に容疑者が軽い脳梗塞の発作を起こしていた可能性が考えられます。
12月3日17時頃、福岡市博多区大博町の原三信病院の東館1階ラウンジにプリウスタクシーが突入した事故で、タクシーを運転していた容疑者の男性(64歳)に刑事責任能力があるかどうかを調べるために現在鑑定留置中です。
鑑定留置は「容疑者の精神状態などを解明する」目的で行われ、衝突直前に加速したという目撃証言と容疑者が事故後に「ブレーキを踏んだが止まらなかった。」と供述したことの矛盾を解明するために容疑者の事故当時の心身の状態を調査します。
最近、高齢者の重大交通事故が頻発し、加齢による認知能力の低下に関心が集まっています。
今回事故を起こした容疑者は「64歳」の「ベテランドライバー」で、
- 高齢者と言えば高齢者かも知れませんが、壮年と言えば壮年と言えなくもない年頃
- ベテランドライバーとして走行前点検にも抜かりがなかった
ことから、事故の原因はほぼ分からない状態です。
原因が分からないことが不安を煽り、フロアマットが二重に敷かれていた事実が判明した時には、各メディアがこぞってフロアマットが原因で、
- アクセルが押し込まれた
- アクセルが戻らなくなった
と報じましたが、結局二重に敷かれたフロアマットは安全上問題はあるものの、今回の事故の原因ではなく、ブレーキシステムの検証とEDR(事故データ記録機)の解析の結果、
- ブレーキシステムに問題はなく、事故当時は踏めば作動する状態だった
- EDR(事故データ記録機)の解析から衝突の直前にブレーキが使用されていなかった
ことが明らかになり、今回の事故は「容疑者の操作ミス」であったという判断がなされました。
容疑者の「操作ミス」が原因で事故が起きたのは間違いなさそうですが、その「操作ミス」を起こした原因が明らかにならないと事故の再発防止もできませんし、不安も解消されません。
今まで明らかになっている情報から考えると、容疑者は事故を起こした当時、軽い脳梗塞の発作を起こし、一時的に正しい思考・動作ができなくなっていた可能性があります。
軽い脳梗塞発作を起こした場合に何が起こるのでしょうか
軽い脳梗塞発作とは、正式には「一過性脳虚血発作」と言います。
脳梗塞とは、脳に流れる動脈の血管が血栓(血の塊)で詰まり、血液の流れが悪い状態が続くことで脳細胞が死んでしまい、運動麻痺などの症状も残ってしまう状態です。
一過性脳虚血発作とは、血栓によって一時的に脳に流れる血流が止まり、運動や思考などに影響が出ますが、脳細胞が死んでしまう前に血液の流れが再び良くなることで脳機能が元に戻り、運動や思考に与えた影響も消える状態のことを指します。
一過性脳虚血発作は脳梗塞とは無関係ではなく、症状が収まったとしても、適切な治療をしないで放置すると、
- 15~20%の人が3ヶ月位内に脳梗塞を発症
- 50%の人は数日以内(特に48時間以内が危険)に脳梗塞を発症
することが分かっています。
そんな恐ろしい一過性脳虚血発作ですが、症状は血栓によって詰まった動脈の場所によってまちまちです。例としては、
- 片目が見えなくなる
- ものが二重に見える
- 転倒しやすくなる
- 顔や手足がしびれる
- 手に持ったものを落とすようになる
- 急にろれつがまわらなくなる
- 急に言葉がでなくなる
- 急にひとが言うことが理解できなくなる
などの運動障害、感覚障害、認知機能障害が発生します。
参考:STROKE JOURNAL 「TIA および軽症脳卒中における一過性認知機能障害」
ブレーキを踏んだつもりになっていても、実はアクセルを踏んだままになっているということも、一過性脳虚血発作によって認知機能障害が発生していたとすると説明がつきます。
今回事故を起こした容疑者については、鑑定留置中に実施される頭部MRI検査で一過性脳虚血発作を起こしていた可能性があったのかどうかについては明らかになると思います。
弁護側と検察側とで、一過性脳虚血発作による一過性認知機能障害が責任能力に与える影響を争う形になるのかも知れませんが、もし一過性脳虚血発作を起こしていた可能性があるという所見が出た場合は、無罪となる可能性があります。
一過性脳虚血発作による重大交通事故のリスクについて認知が必要です
加齢による認知機能に問題がない人でも、高脂血症などの生活習慣病があり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクがあると医師から注意されている人は、運転中に一過性脳虚血発作や脳梗塞発作を起こしたことが原因の重大交通事故を引き起こす恐れがあります。
高齢者が交通事故を起こすのは認知症だけではなく、一過性脳虚血発作や脳梗塞発作などによる事故のリスクを正しく理解しておかなければなりません。
郊外ではバス路線が廃止され、高齢者が運転しなければ、買い物や通院ができない状態があり、また定年を過ぎても、年金に頼れず、嘱託として働き続けなければならない現状では、認知機能に全く問題がないとしても、運転中の一過性脳虚血発作や脳梗塞発作によって重大事故を引き起こすリスクは少なくありません。
一過性脳虚血発作や脳梗塞発作は起こる場所を選びません。自宅で起こす場合もあれば、高速道路を走行中に起こす場合もあるかも知れません。ドライバーの年齢が上がっていくにつれて、更に大きな社会的な問題になっていくと思われますので、一過性脳虚血発作や脳梗塞発作について正しく理解し、自分に起こった場合どうするべきかについて、普段から考えておくことで、万が一の際に大きな差が出ると思います。
一過性脳虚血発作や脳梗塞発作に限らず、
- 片目が見えなくなる
- ものが二重に見える
- 転倒しやすくなる
- 顔や手足がしびれる
- 手に持ったものを落とすようになる
- 急にろれつがまわらなくなる
- 急に言葉がでなくなる
- 急にひとが言うことが理解できなくなる
などを感じた場合は、速やかに安全な場所に車を止める必要があります。
また、
- 胸が苦しい
- 息苦しい
- 突然強い頭痛に襲われた
など、普段と違う体調の異変を感じた場合は、同じく速やかに車を安全な場所にとめて、直ぐに119番通報できるように携帯電話を用意しておくと安心です。
高齢者による自動車運転のリスクと言えば認知症ばかりが注目をされますが、一過性脳虚血発作や脳梗塞発作などにも同様の注目がされるべきです。これから更に高齢者ドライバーが増えていく中で、原因が「操作ミス」だとされる重大交通事故も多くなると思いますが、その「操作ミス」の原因が何であったのかについても徹底的に解明して頂きたいと思います。
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