食中毒 市の営業自粛要請を無視で感染者拡大
2019/06/13
営業自粛要請には強制力がありません
広島県広島市中区の旅館が、食中毒を起こした疑いがあるとして、広島市保健所から営業自粛要請を受けていたにも関わらず、営業を継続したことで、新たに125人の食中毒患者を出してしまいました。
この事件は、11月9~10日に神奈川県横浜市の高校生が宿泊し、43人が下痢などの症状を訴えたことに始まりました。保健所は事態を11月11日に把握し、翌12日に旅館の調理場への立ち入り検査を行いましたが、この時点では旅館の食事が原因とは断定できませんでした。しかし、「疑いがある」として広島市保健所はこの旅館の飲食部門に対して営業自粛を要請しました。
この旅館は、自粛要請であることから営業を継続して、結果12~13日に宿泊した
- 滋賀県草津市の小学校63人
- 兵庫県神戸市の小学校38人
- 大阪府東大阪市の小学校24人
が次々と食中毒症状を発症しました。それ以外の発症者も含めると9~13日の宿泊者のうち214人が感染するという大規模な食中毒感染事故に発展しました。原因はノロウイルス。食材からは陽性反応がなく、複数の従業者の便から陽性反応がありましたので、調理などの段階で料理にウイルスが付着したものと考えられます。
この旅館は広島市保健所の営業自粛要請が「要請」であったことから、強制力がないと判断して営業を継続しましたが、その結果、感染者が拡大しただけではなく、当初はこの旅館が感染源であると断定されなかった神奈川県の高校生43名の食中毒についてもこの旅館が原因であると断定されてしまうことになりました。
【食品衛生法違反者等の公表について】食中毒事件の発生(11月13日)(広島市のウェブサイト)
要請だから無視をしてもいいのか
法的な拘束力や強制力はありませんので、無視自体に問題はありません。「要請」は要請で強制ではありませんから。
ですが、保健所という人の安全・健康に関わる機関が出す要請は、それなりの意味があります。
それを破り、その結果被害を拡大するようなことがあれば、法律のもとで処罰されることはありませんが、
保健所の自粛要請を無視した結果、被害を拡大させた
という事実によって、社会的な制裁を受けることになります。しかも、修学旅行生が多く宿泊する旅館であれば、更に風当たりは強くなりますし、今回の報道を受けて今後は他の旅館に宿泊先を変えるところも少なくないはずです。長年の付き合いがあっても、こどもの保護者には関係ありません。かなりの数の固定客を失うことになると思いますので、保健所による営業禁止よりもはるかに厳しい罰を受ける結果になるでしょう。
保健所の営業自粛要請を受けた時点で、
- 営業自粛要請を受けたことの説明
- 予約のキャンセル
をすることによる信頼の失墜を恐れたため、営業を継続する判断をしたと思いますが、結果その何倍にも及ぶ信頼を失い、大きな損害を出す結果となりました。
63人の児童が食中毒になった滋賀県草津市立渋川小の仲野忠克教頭は、
「せめて仕出し弁当を取るなど配慮してくれたら、子どもたちも苦しまなくて済んだ。食中毒の疑いがあるという情報を事前に伝えてほしかった。今後、医療費などの補償を求めたい。」
とコメントしていますが、全くその通りで事実を伝え、仕出し弁当などを出すことで安全を期せば、被害も拡大させず、逆に更なる信頼を築けた可能性すらあります。残念です。
しかも、旅館の従業員は毎日新聞の取材に対して「弁護士に任せているのでコメントできない」と話をしましたが、これもあまりよくない対応です。上塗りしてしまいました。
危機管理能力をつける必要があります
広島市保健所は検査の結果、この旅館が食中毒の感染源だと特定することはできませんでしたが、その可能性が濃厚であるとして、営業自粛要請を出しました。そのことの重さを考えて、営業を自粛するべきでした。
- 12日の午前中の検査で特定できなかった
- キャンセルをすると損が出る
- 要請を公表すれば信頼が落ちる
だから、営業を継続しようと経営者が判断したのだと思いますが、保健所の検査の前日(11日)に現場の責任者が普段よりも念入りに殺菌・除菌をした可能性もありますし、何よりも宿泊客の安全を考えると保健所の指導や要請には従うべきでした。それを誤った判断を下したのは残念ですが、
宿泊客の安全 < 旅館の経営上の安全
としてしまった経営者の危機管理意識を治すには、今回の事件で受ける社会的制裁、および損害賠償請求位のインパクトがないとダメなのかも知れません。ただ、これで旅館の経営を継続できなくなる恐れもありますので、本当に高い勉強代に付いてしまいました。
今回の食中毒患者の中に重症者がいないのが不幸中の幸いです。修学旅行などの楽しいイベントがこんなことになって可哀想ですし、治療中のこども達が一日も早く完治することを祈っています。
もし再度旅館の経営を再開することができたとしたら、今回のことを真摯に受け止めて、宿泊客の安全を第一に考えて判断するようにしてください。ジャパネットたかたでは、顧客の個人情報漏えい事件を起こした際、原因究明と対策が完全に出来るまで営業を再開しませんでした。1か月半の営業自粛で150億円の損害になったとも報じられています。(たかた社長は社会的責任から会社の清算も考えたそうです。)それだけの体力がある会社であったこともありますが、顧客を第一に考える姿勢は本当に重要と思います。
このたび当館にて食中毒事故が発生し、ご宿泊されたお客様及び関係された方に多大なご迷惑をお掛けしましたこと、衷心よりお詫び申し上げます。ご宿泊されたお客様への補償につきましては、誠心誠意対応させていただきます。
当館といたしましてはこれを機に、保健所様のご指導の下、「衛生管理体制の強化」「従業員の衛生教育の徹底」に努めてまいります。
再びこのような事故がないことをお誓い申しあげ、お詫びさせていただきます。
有限会社 世羅別館 代表取締役 高田秀穂
出典:世羅旅館のウェブサイト「新着情報 2015.11.18 当館における食中毒事故発生のお詫び」より
公開されたことはいいと思いますが、向いている方向が気になりました。
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