車いすテニスの国枝慎吾選手 準々決勝で敗退
2019/06/12
リオデジャネイロ・パラリンピックで3連覇が期待された車いすテニスの国枝慎吾選手が準々決勝で敗退しました。4月に肘を手術したせいで試合の勘が鈍っていたそうです。そういう時もあるでしょう。これからの活躍を期待しています。
車いすテニスで1500万円の車いすを使うこと
1500万円の車いすが使用されて物議を醸しているという記事を眼にした時、きっと国枝選手のことだと思い、読むと気分が悪くなりそうで、敢えて読みませんでした。
1500万円の車いすを使ったのに負けた
的な。でも、どうしても気になったので、昨日記事を読んで本当のところを知りました。
1500万円の車いすを使ったのは、フランスのStéphane Houdet(ステファン・ウデ)選手。昨日行われた準決勝第一試合でイギリスのゴードン・リード選手に5-7、2-6のストレートで敗れています。
補助具についてはリオデジャネイロ・パラリンピック開催前からも色々言われていました。
補助具の性能が成績も左右するため、貧富の差が試合結果に出てしまう可能性がある
確かにそういう側面もあると思います。
1500万円の車いすの記事を載せた日刊スポーツでも、
1500万円の車いすで戦うってどうなの
今年5月の世界国別対抗戦(東京)で来日したウデは、周囲の声に対し「車いすの動き方を解明できたし、自分の動きも進歩した。この開発は車いすテニス界全体をレベルアップさせるものだ」と悪びれずに語った。しかし、公平の条件で競うのがスポーツ。違和感は残った。
出典:日刊スポーツ 9月14日(水)14時20分配信「1500万円の車いすで戦うってどうなの」
とかなり批判的に書かれています。
でも、Stéphane Houdet(ステファン・ウデ)選手の言葉にある
この開発は車いすテニス界全体をレベルアップさせるものだ
出典:日刊スポーツ 9月14日(水)14時20分配信「1500万円の車いすで戦うってどうなの」
という言葉にも一理あります。
1500万円の車いすは高いのか、そうでもないのか
個人的にはそれほど高くはないのではないかと思います。(僕には一生掛かっても買えませんけど。。。)
国枝選手の車いすは、
ちなみに国枝の車いすの素材はアルミ製。値段は約40万円だそうだ。
出典:日刊スポーツ 9月14日(水)14時20分配信「1500万円の車いすで戦うってどうなの」
って書かれていますが、その車いすはかの有名なオーエックスエンジニアリングです。
日本が世界に誇るモノ作り集団。
オーエックスエンジニアリングの競技用車椅子・日常用車椅子の開発部門が独立して、現在は「REV(レブ)」として最高品質の車いすを製造しています。
国枝選手の車いすもこの「REV(レブ)」が製造しているTRZというモデル。
※画像をクリックするとOZエンジニアリングの製品紹介ページが開きます
価格は40万円とのことですが、これは開発にかかったコストを販売する車いすの原価に乗せることが出来るためで、
開発費≠40万円
です。国枝選手のためだけに製造している訳ではないですし、日常用車椅子用に開発した技術も盛り込まれていますので、その開発費はPRICELESS。
一方、フランスのStéphane Houdet(ステファン・ウデ)選手の車いすは、
自転車のタイヤメーカーや機械力学の学者とチームをつくり、機動性を高めたカーボン製の画期的なマシンを完成させた。値段は実に1500万円。
出典:日刊スポーツ 9月14日(水)14時20分配信「1500万円の車いすで戦うってどうなの」
ハンドリムまでカーボン製で、しかもホイールと一体化までされている本当のフルカーボン製です。アルミ製と異なり溶接ができないため、ワンオフ(一品物)になると製造コストが跳ね上がってしまいます。しかも、ハンドリムと一体化されたホイール形状が特殊なため、タイヤまで専用設計となると、その金型まで必要になってしまい、結果「1500万円」という価格になってしまいます。
もしこの技術や金型を競技用車椅子・日常用車椅子の製造に転化させていくことになれば、100~200万円程度に価格を下げることができるかも知れません。ただ、技術・金型をStéphane Houdet(ステファン・ウデ)選手専用にするのであれば、複数台製造する毎に単価は少しずつ下がっては行きますが、非常に高い車いすであることには変わらないでしょう。
ですから、「1500万円の車いすを使用するStéphane Houdet(ステファン・ウデ)選手を破った国枝選手が使用している車いすはたったの40万円」的な記事は、かなりバイアスが掛かってしまっています。状況が違いますので、比較すること自体に無理があると思います。
とは言え、官民一体となって車いす製造という形で支援してもらえる選手と、自国にOXエンジニアリングのような優秀なメーカーすら存在しない国の選手とでは大きな差が出てしまうことは事実です。
かつてアベベ選手は裸足でオリンピックのマラソンに出場し優勝しました
かつて運動場を裸足で走ると
「アベベだ!」
と言われたものですが、今の若い人にはなんと事やらわからないと思います。
1960年のローマオリンピック。試合直前にシューズが壊れたものの、ローマで自分に合うシューズが見つからなかったため、マラソンに裸足で出場。そして、30km地点でトップに出ると、そのままゴールまで単独トップを維持し、当時の世界最高記録となる2時間15分16秒2で優勝。無名の選手が裸足で優勝、しかも世界記録。一躍有名人となりました。
この逸話は「弘法筆をえらばず」の例えとして語られましたが、流石に現在では通用せず、シューズやウエアは記録達成の上で非常に重要な要素となっています。
1500万円の車いすは大変な驚きをもって受け止められているようですが、
- 競泳水着
- アーチェリー
- ディンギー
- 自転車
などにも大きな開発費がつぎ込まれ、ワンオフとなれば非常に高額になる可能性もあります。特にディンギーは市販されているものが200万円を超えたりしますので、ワンオフとなれば1500万円では済みません。
汎用品からワンオフまで、色々な製品を使って、選手はそれぞれ戦っています。
パラリンピック、そして車いすテニスに限らず、オリンピックのどの競技においても、ウェアや道具の性能が成績に反映されてしまう部分はあります。
それを全て排除しようとしたら、
- 全員同じウェア・道具で試合をする
- 一切のウェアと道具の使用を禁じる
などしないといけませんが、ウェアと道具を使用しない訳にもいきませんので、唯一の方法は
- 共通のウェア
- 共通の道具
の使用しかありません。
でも、そんなことを言い始めたら、
- バレーボールに身長制限・身長で階級制
- 水泳に身長で階級制
- ラグビーに体重制限・体重で階級制
など、競技が窮屈になってしまうと思います。
「オリンピックの精神」云々と言い出すと色々ややこしくなってしまいますので、ここは少しおおらかになって、ウェア・道具の開発も含めたオリンピックという捉え方をした方がプラスになると思います。
とは言え、パラリンピックの陸上では両足義足の選手が元々の身長よりも高くなってしまう程の義足を付けることなどにはレギュレーションが必要かも知れません。国際パラリンピックが、両足義足の選手の義足の長さについて新規則導入を検討する予定があるそうですが、それは流石に仕方がないことだと思います。もしかしたら、素材の反発係数にも一定の制限がかかる可能性もあると思います。
自動車と人間を比べてはいけないのかも知れませんが、自動車のFormulaレーシングのように、パラリンピックもオリンピックも、そしてその他の大会も、ウェアや道具にレギュレーションを設けて、その中で戦うという形になっていくのかも知れません。
個人的には何でもありが好きです。高い道具を使っている選手を、無名のブランドを使っている選手が打ち負かすというドラマも、またスポーツ競技の醍醐味なんじゃないかって思います。そして、その結果、無名ブランドが有名になり、有名ブランドが凋落するというのもまたドラマですし。その過程で、トップアスリートの身体能力が更に進化し、そしてウェアや道具も進化して、僕のような素人もその恩恵にあずかることができる。これでいいんじゃないかと思ってます。
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