マイコプラズマ肺炎でこどもが入院
2019/06/12
初めてのマイコプラズマ感染から肺炎、そして初めての点滴と入院。怒涛の2週間でした。
マイコプラズマは悪化すると肺炎起こし入院必須
マイコプラズマはウイルスだと思ってましたが、ウイルスではありませんでした。細菌(バクテリア)の一種ですが、ちょっと変わった特徴があるようです。
マイコプラズマと聞いて、なんだかSFな感じ(「プラズマ」の部分)がして、カッコいいとさえ感じてしまいますが、そもそもこの名前にはどんな意味があるのでしょうか。
Mycoplasma(マイコプラズマ)
マイコプラズマは発見された当初「真菌」の一種だと思われたため、学名は
ギリシャ語でキノコを意味する「ミュケース」の語幹+ギリシャ語で物を意味する「プラスマ」
を合成して作られました。新ラテン語では「菌類のようなもの」という意味を持っています。
でも、実際には真菌の一種ではなかったため、この学名は実態を表してはいません。
分類では、
真正細菌(Bacteria)>テネリクテス門>モリクテス綱>マイコプラズマ目>マイコプラズマ科> マイコプラズマ属
となっています。
マイコプラズマには、124種と4亜種(2015年4月28日現在)が登録されており、その中でも人間に肺炎を起こす種は主に
Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ)
だと言われています。
マイコプラズマは、他の細菌と比べてもゲノムサイズが小さく、55万~140万塩基対程度しかありません。(※記載種の中で一番ゲノムサイズが小さい種は、マイコプラズマ・ゲニタリウムで、そのサイズは58万塩基対)一般的な真正細菌と同じだと言われている大腸菌のゲノムサイズは460万塩基対と、マイコプラズマ・ゲニタリウムの8倍強もあり、マイコプラズマ属のゲノムサイズがいかに小さいかが分かります。
ゲノムサイズだけではなく、実際の大きさも、細菌の中では非常に小さい部類に入ります。
- 真正細菌:通常500~5000nm(0.5-5 μm)
- マイコプラズマ:200~300nm
- ウイルス:数十nm~数百nm
そして、マイコプラズ最大の特徴として、細胞壁が無いことが挙げられます。
通常、真正細菌には「Cell Wall(細胞壁)」が存在しています。
ですが、マイコプラズマには細胞壁がなく、そのために決まった形もないために、また0.22 μmフィルターを使ったろ過滅菌を潜り抜けてしまい、培地を汚染することがあります。
photo by M. Haemofelis – Wright-Geiemsa Staining 100X / CC BY-SA 3.0
Wikipediaの「マイコプラズマ」のページには、以下の写真が載っていますが、この写真はスピロプラズマの写真で、大きく言えばマイコプラズマの仲間と言えなくもないですが、
- 真正細菌(Bacteria)>テネリクテス門>モリクテス綱>マイコプラズマ目>マイコプラズマ科> マイコプラズマ属
- 真正細菌(Bacteria)>テネリクテス門>モリクテス綱>エントモプラズマ目>エントモプラズマ科>スピロプラズマ科
となっていますので、モリクテス綱に属する細菌の説明で使うのはいいですが、マイコプラズマの説明で使うのは誤解を招くので良くないと思います。マイコプラズマのページを参照される際にはご注意ください。
この写真のせいで、最初僕はマイコプラズマがスピロヘータみたいに渦巻いていると勘違いしていました。
因みに下はスピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ。
キモい。。。
マイコプラズマによる肺炎の特徴
うちの子は、当初マイコプラズマ陰性でしたが、精密検査(保険対象外の「高い」検査と言われ、請求が怖いです。。。)でマイコプラズマ感染が分かりました。この検査では、マイコプラズマが耐性菌かどうかも分かるそうで、うちの子のマイコプラズマは
薬剤耐性菌ではない!
ことが分かり、一同胸をなでおろしました。
マイコプラズマによる肺炎「マイコプラズマ肺炎」とはどのような特徴があるのでしょうか?
感染は5~35歳が中心と言われていますが、過信は禁物です
Wikipediaには、
患者の年齢は幼児期、学童期、青年期(5歳から35歳)が中心である。流行は学童から始まり家庭内感染へと広まる。病原体分離例でみると7歳から8歳にピークがある。5歳未満の幼児では、マイコプラズマに感染しても、軽症状か不顕感染の場合が多い。
出典:Wikipedia 「マイコプラズマ肺炎」
と書かれていますが、決して
- 5歳未満が感染しない
- 5歳未満は感染しても軽症で済む
という意味ではありませんので、5歳未満であっても、十分な警戒が必要です。
生涯免疫の獲得はありません
感染によって免疫ができて、キャリアと濃厚接触をしても感染しない場合もありますが、残念なことに生涯続く免疫ではないため、再感染の可能性が常にあるため、注意が必要です。
全く免疫がつかない場合も考えられますし、長い間大丈夫だったのが突然再度感染するなんてことも考えられます。
マイコプラズマの場合、免疫がつくことは考慮せずに、全ての人が注意した方が安全です。
感染力は強くなく、感染には濃厚接触が必要だと考えられています
幸いにも感染力は強くないため、インフルエンザのような感染を心配する必要はないと言われてます。
顔と顔をかなり近づけた状態での飛沫感染によると言われていますので、同じクラスに保菌者がいても通常は感染を起こしません。仲の良い友人同士で感染し、家族間で感染が広がるパターンが多いと考えられています。
また、欧米では、家庭以外に寄宿舎、軍隊、サマースクール、学校などの閉鎖集団での発生が多いとされているそうです。
うちの子の場合、仲のいい3人組が順番に寝込み、トリだったうちの子が入院しました。仲良しの印ではありますが、あまりうれしくない印ですね。。。
感染しても症状が軽い場合があります
マイコプラズマに感染しても、必ず肺炎になる訳ではありません。
症状が軽い、または症状が現れない(不顕性感染)の場合もあります。症状が出ても、気管支炎のまま治癒する人も少なくありません。
アメリカでは、マイコプラズマ肺炎のことを
Walking Pneumonia(歩く肺炎)
と呼ぶこともあるそうです。肺炎球菌などによる通常の肺炎と違って、症状が軽く、入院を必要としない場合があるためです。
もし、家族がマイコプラズマに感染したら、免疫がある場合を除いては、家族全員が感染を起こしている可能性が十分にあります。感染を広げないために、咳が出る場合は必ずマスクをして、
- 病気療養中の人
- 免疫にトラブルがある人
などとの接触を原則避け、止むを得ない場合はマスク・手指の洗浄などをしっかり行って、感染防止に努めてください。
マイコプラズマの潜伏期間は1~4週間もあります
インフルエンザの潜伏期間は2日前後と言われ、長くても1週間程度と考えられています。それでも、その潜伏期間中に気付かずにインフルエンザウイルスを撒き散らして、感染を広げてしまう恐れがあります。
それに比べて、マイコプラズマの潜伏期間は
1~4週間(通常2~3週間)
と長いのですが、実際に排菌が始まるのは、初発症状発現前2~8日前からと言われていますので、丸々4週間も排菌が続く訳ではなく、ちょっと安心ですが、それでも症状が出ない、または病院へ行くほどでもない軽い場合は、ずっと排菌したままになってしまうため、厄介な感染症の一つです。
排菌期間も非常に長い病気です
潜伏期間が長いマイコプラズマ感染症ですが、それに比例して排菌の期間も長くなっています。排菌期間は
4~6週間(症状が出る2~8日前から)
と非常に長い期間排菌が続きますので、症状が収まった後にも注意が必要です。
呼吸器系の感染症は全て「咳エチケット」が非常に重要・有効なのですが、感染力がそれほど強くないマイコプラズマは特に有効です。「咳にはマスク」を忘れずに!
初期の症状は風邪に似ています
マイコプラズマに感染して、症状が出る場合(出ない場合もありますので注意が必要です)は、風邪の症状にも似ていて、
- 乾いた咳
- 軽い発熱
- 鼻水
- だるさ
が見られることが多いため、市販の風邪薬を飲ませてしまう方も少なくありません。
マイコプラズマに感染している場合、
- 市販の風邪(感冒)薬
- ペニシリン系、セフェム系の抗菌剤(※マイコプラズマは細胞壁がないため、細胞壁合成酵素を阻害しても効果なし)
は効果がありません。
マイコプラズマ肺炎に特有の症状
マイコプラズマ肺炎に見られる特徴的な症状には、
- 乾いた咳(特に夜中から明け方に酷くなる)
- 高熱(特に夜中から明け方に酷くなる)
- 微熱
- 発熱の後に咳が出始める(風邪の場合は逆のことが少なくない)
が挙げられますが、特に咳と高熱が夜中から明け方に出ることが特徴と言われています。
うちの子の場合、当初昼間は37℃台の熱で、夜中から明け方に39~40℃位に上がった後、翌日小児科を受診する頃には再び微熱に戻っているという状態が見られました。
- 空咳が続くため、かかりつけの小児科を受診⇒アレルギーの薬と咳止めの薬が処方
- 咳に加えて微熱が出たため、かかりつけの小児科を最初の受診から1週間後に再受診⇒原因不明で経過観察
- 受診した日の夜中から明け方に39℃の高熱
- かかりつけの小児科で血液検査、胸部レントゲン撮影、およびインフルエンザとマイコプラズマの検査⇒問題なしで、再び経過観察
- 夜中から明け方に40℃の高熱
- かかりつけの小児科で血液検査と胸部レントゲン撮影⇒画像もCRPも異常なし⇒地域の中核病院の救急に紹介
- 地域の中核病院の救急で胸部レントゲン撮影、血液検査、インフルエンザ、マイコプラズマの検査⇒問題なしで、経過観察で、2日空けて診察予約
- 昼間の発熱が底上げして38℃台、夜間は2晩連続で40℃の高熱
- 地域の中核病院で胸部レントゲン撮影、血液検査、マイコプラズマの検査⇒肺炎が認められたため入院するも、マイコプラズマは陰性
- 痰を採取して、検査
- 痰を使ったマイコプラズマの検査(保険適用外)でマイコプラズマ陽性(薬剤耐性菌ではないことも判明)と肺炎球菌の感染も判明
- 薬剤が決定し、本格的な治療開始
今思えば、マイコプラズマ肺炎の特徴全てが見られたので、かかりつけの小児科医がマイコプラズマ肺炎を疑ってマクロライド系抗生物質(クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシンなど)を処方してくれていれば入院せずに済んだ可能性もありますが、検査が陰性であった場合に、抗生物質を出すのを躊躇する気持ちも分かります。
マイコプラズマの消毒方法
マイコプラズマの消毒には、
- 200~1000ppm次亜塩素酸ナトリウム
- 70%エタノール(イソプロパノール)
- 消毒用アルコール
が有効と言われていますが、マイコプラズマは熱と界面活性剤にも弱いため、
- 煮沸消毒
- 界面活性剤で洗浄
も有効です。
幼稚園/保育園、学校などにおける石鹸での手洗い奨励は一定の効果はありますが、マイコプラズマ感染の多くは飛沫感染だと考えられますので、その意味では石鹸での手洗いや1%次亜塩素酸ナトリウムや70%エタノールを使った消毒に労力を割くよりは、咳エチケットを広める方がマイコプラズマ感染予防には効果があるかも知れません。(全部徹底出来れば最も安全です。)
マイコプラズマに感染したら、幼稚園/保育園や学校は休む必要があるのでしょうか?
マイコプラズマは、扱いが微妙ですので要注意です。
学校保健安全法施行規則で「第三種 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎その他の感染症」に含まれる場合(含まれない場合が殆どですのでご注意ください!)は、
(出席停止の期間の基準)
第十九条 令第六条第二項 の出席停止の期間の基準は、前条の感染症の種類に従い、次のとおりとする。
三 結核、髄膜炎菌性髄膜炎及び第三種の感染症にかかつた者については、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
出典:学校保健安全法施行規則
とされており、学校医またはその他の医師によって
「感染の恐れなし」
とのお墨付きを頂くまでは出席停止扱いにあります。出席停止扱いですので、欠席扱いにはなりません。
しかし、「第三種 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎その他の感染症」に含まれるどうかは、
学校で通常見られないような重大な流行が起こった場合に、その感染拡大を防ぐために、必要があるときに限り、学校医の意見を聞き、校長が第三種の感染症として緊急的に措置をとることができるものとして定められているものであり、あらかじめ特定の疾患を定めてあるものではない。
「その他の感染症」として出席停止の指示をするかどうかは、感染症の種類や各地域、学校における感染症の発生・流行の態様等を考慮の上で判断する必要がある。そのため、次に示した感染症は、子どものときに多くみられ、学校でしばしば流行するものの一部を例示したもので、必ず出席停止を行うべきというものではない。
とされていて、要は「ケースバイケース」。最悪レベルのアバウトさ。
必ず出席停止(=欠席にならない)になる訳ではないのですが、状況に応じてはなるかも知れない。ただ、出席停止にはならないものの、学校における安全を考えた場合、
病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまでは自主的に欠席する
必要があるということになりそうです。
どの程度で、という線引きはなく、全て学校長の判断次第。。。(期待はしない方が安全ですね)
マイコプラズマの薬剤耐性菌問題
2000年に日本の研究者によってマクロライド系抗生物質への耐性菌株が分離されて以来、耐性率は上がり続けています。
これまでマクロライド系抗菌薬が第1選択薬として使用されてきましたが、効きがいい分、必要以上に使用された感もあり、それがマクロライド系抗生物質への耐性菌株が日本、中国、韓国などの東アジアで分離される原因ではないかと考えられています。日本などと比較して、抗生物質を余り使用しないアメリカやヨーロッパではマクロライド系抗生物質への耐性菌株が分離されることは余り無いと言われて来ましたが、最近その傾向に変化が見られ、注意が必要です。(※2010 ~2011年頃から欧米やイスラエルなどにおいて患者数の急増が見られ、それが耐性菌の分離につながっているものと思われます。)
2011年に北里大学が実施した調査では、80%が耐性菌株だというショッキングな報告もされました。その調査結果によると、マクロライド高度耐性菌株は、従来有効とされていた
- クラリスロマイシン
- エリスロマイシン
- アジスロマイシン
に対して高い耐性度を持ってしまっており、現時点では有効な抗菌剤は限られています。(ミノサイクリンのみという情報もあります)
マイコプラズマ肺炎は注意するべき感染症ではありますが、余り恐れ過ぎて自然治癒する可能性がある場合でも「念のためにマクロライド系抗菌薬を使う」ことによって、やがてマクロライド系抗菌薬が全く効かなくなってしまう恐れもあります。
- インフルエンザと比べると感染しにくい
- 感染しても症状が軽いままで自然治癒する場合もある
- 万が一、マイコプラズマ肺炎を発症しても抗菌剤で治癒が可能
という面もありますが、それがゆえに追い詰められつつある感があります。
感染してから抗菌剤で治療するのではなく、感染を防ぐように一層努力をするべき感染症に一つであると思います。また、高熱が下がったからと咳が出ているにも関わらず、マスクを着けさせずに登園や登校させることは避けて、
咳が出ている場合は、必ずマスクを着用して登園・登校
するという「咳エチケット」を常識にする必要があると思います。
マイコプラズマに感染する人、そしてマイコプラズマ肺炎を引き起こす人が一人でも多く減ることを祈っています。
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