獣避け電気柵 触ってないのに感電死する恐れ
2019/06/13
7月19日、静岡県西伊豆町で獣避け電気柵で7名が感電する事故が発生し、そのうち2名が亡くなりました。電気柵による死亡事故は、平成21年に兵庫県南あわじ市でも起きています。その時は、イノシシよけの電気柵に触れた男性が感電死しています。(あわじ市の事故では、電気柵用電源装置を使わずに、家庭用交流 100V を電気柵に直付けしたことが原因です)
あるニュースでは「地元の人たちはビリッとなるから、柵には絶対に近づかないのに」という地元の主婦のインタビューを載せていました。僕も最初にニュースを聞いた時には「なぜ7人も触ってしまったんだろう」と疑問に思いました。ですが、今回は柵に触れた訳ではなく、壊れた柵の一部が水に浸かり、川遊びをしていた人が感電するという恐ろしいものでした。これでは柵の危険性を十分に理解していたとしても感電事故が起きてしまいます。(こどもが柵に触れて感電し、その衝撃で切れた柵の一部が川に浸かって被害を広げたのではと推測されています)
僕の住んでいる街でも郊外に行くとイノシシやシカによる食害が酷いため、多くの電気柵を目にします。一度こどもからどの位びりびりするのか聞かれたことがありますが、余り深く考えず、危ないから触らないように注意しただけでした。電気柵は単に触らなければよいというだけではないことに気付き、自分の注意不足を反省しています。
電気柵を規制する法令
電気事業法(昭和39年法律第170号)に基づく電気設備に関する技術基準を定める省令(平成9年通商産業省令第52号)第74条
(電気さくの施設の禁止)
第七十四条 電気さく(屋外において裸電線を固定して施設したさくであって、その裸電線に充電して使用するものをいう。)は、施設してはならない。ただし、田畑、牧場、その他これに類する場所において野獣の侵入又は家畜の脱出を防止するために施設する場合であって、絶縁性がないことを考慮し、感電又は火災のおそれがないように施設するときは、この限りでない。
原則、電気柵の設置は原則禁止なんです。ただ、野獣の侵入などを防ぐ目的で、感電または火災のおそれがないように設置する時は例外的に許容するという性格のものなので、安全に配慮するのは絶対条件です。
農林水産省生産局農産部農業環境対策課鳥獣災害対策室からの要請
- 電気さくの電気を30ボルト以上の電源(コンセント用の交流100ボルト等)から供給するときは、電気用品安全法(昭和36年法律第234号)の適用を受ける電源装置(電気用品安全法の技術基準を満たす電気さく用電源装置)を使用すること。
- 上記1.の場合において、公道沿いなどの人が容易に立ち入る場所に施設する場合は、危険防止のために、15ミリアンペア以上の漏電が起こったときに0.1秒以内に電気を遮断する漏電遮断器を施設すること。
- 電気さくを施設する場合は、周囲の人が容易に視認できる位置や間隔、見やすい文字で危険表示を行うこと。
獣による食害を防ぐために電気柵を設置する場合は以上の項目を遵守する必要があります。
西伊豆での事故で得た教訓
今回の事故では家庭用の100ボルト電源を使用しているため、
- 電気用品安全法の技術基準を満たす電気さく用電源装置
- 15ミリアンペア以上の漏電が起こったときに0.1秒以内に電気を遮断する漏電遮断器
- 周囲の人が容易に視認できる位置や間隔、見やすい文字で危険表示
を取り付ける必要がありますが、実際にどうだったのでしょうか。現時点では調査中となっています。一部報道では「変圧器(漏電遮断器のこと?)は付けられていたが、作動していなかった可能性もあるとみられる(共同通信)」とありますので、漏電遮断器が付けられていたものの作動しなかった可能性があります。(動物に電気ショックを与えるため、電流を微弱にした上で、電圧を上げるために変圧器を介して電線に繋げるている場合があるかも知れませんが、変圧器が作動していない場合は電流も電圧も弱いままのため、今回の事故は起きていないはずです。共同通信の内容が間違っているのかも知れません。)
安全に基準に合致した電気柵であっても、
- 漏電遮断器の故障
- 電気柵が大雨で流されて、水たまり、水田、川に浸かっている
などによって、ひとが感電事故を起こす危険性があることが分かりました。
また、電気柵の中には安全基準を満たしていないものが存在している危険性もあります。(正しく設置された電気柵は、触れるとビリッとしますが感電して負傷するようなことはありません。微電流・高電圧のショックは時速80キロのピンポン玉が当たったようなもので軽い痛みしか感じません。100Vの家庭用電源へ直付けした電気柵は、時速40キロの自動車が衝突するようなものです。言うまでもなく大怪我をします。)
設置者の義務
設置者は基準を満たした電気柵を設置し、定期検査に加え、大雨の後に破損がないかを検査して、常に安全な状態を保ってください。万が一の感電を防ぐためにも、昼間は電源を切ってください。
大人の義務
そして一般の大人は電気柵の危険性について正しく理解しましょう。基準を満たした電気柵ばかりではないことや故障や大雨などによって電気柵の一部が水たまり、水田、川などに浸かり感電を起こす恐れがある状態になっている可能性があることも認識しましょう。
親の義務
こどもに電気柵の危険性を説明しましょう。電気柵が使われている周囲の水田や川へ入ることは極力避けるように注意して、こどもだけで遊びにいくことは絶対に止めさせる必要があります。
今回の事故で農林水産省などから農業従事者などへ改めて注意喚起がされると思いますが、高齢化が進んでいる中、その注意喚起がどの程度伝わり、改善が実現されるかは不明です。自分の身は自分で守る気持ちで、電気柵が使用されているエリアへ遊びに行く、または帰省する時には、感電事故に巻き込まれないように注意してください。
続報 7月21日
その後の調べで、事故を起こした電気柵には本来であれば設置しなければならない漏電遮断器と危険表示がされていなかったことが分かりました。100Vの家庭用電源が使われていたことも分かっていますので、もしかするとパルスで高圧でショック与える専用の電源装置も使わずに、100Vの家庭用電源直付けだったのかも知れません。これは平成21年に兵庫県南あわじ市で起きた死亡事故と同じパターンです。あの事故以来、農林水産省や業界から注意喚起がされてきましたが、再び発生してしまいました。今回の事故を受けて、全ての電気柵が改善されるといいのですが、それは現実的ではありませんので、今後も100Vの家庭用電源に直付けされている殺人電気柵が存在していると思って、絶対に触れないようにしなければなりません。
続報 7月22日
共同通信が「変圧器は付けられていたが、作動していなかった可能性もあるとみられる」と漏電遮断器と混同した報道をしていましたが、現在分かってきたことは、
- 漏電遮断器は取り付けられていない
- 昇圧器(変圧器)が取り付けられ、電圧が上げられていた
100ボルトのままでは電圧が低いため、通常は電圧は上げられます。ただ、本来は電流は微弱にされて、電圧だけ上げて、しかもそれがパルスで送られるため、ビリッとした衝撃は継続はしません。恐らくパルスにするための専用の電源装置と漏電遮断器無しに、変圧器を介して家庭用電源直付けだったのでしょう。記事の中に「電流」と「電圧」を混同して書いたものが多いため、読んでいて頭がこんがらがりました。
続報 7月25日
静岡県西伊豆町で事故を起こした電気柵は、5年前に作られたことが分かりました。兵庫県あわじ市で死亡事故が起きたのが6年前ですから事故の翌年に作られています。事故を受けて注意喚起や業界内での改善努力がされた後に制作されていることから、他にも同じようなケースやあわじ市の事故以前から専用電源も漏電遮断器もない状態で改善無しに運用を続けているケースもありそうです。
友人が県の要請を受けて県内の電気さくの総点検を行っていますが、必ずしもオーナーが同伴する訳ではなく、また周囲が1キロを超えるような柵もある中で、全てを完全に確認することは簡単ではなさそうです。オーナーが高齢の場合は改善したくても改善が出来ない場合もありそうなので、自治体や組合が協力して対策を講じていくと思いますが、いつ対策がされるのか、そもそも対策が完了するのか不明な状況では、自衛をするしかありません。電気柵の近くで作業をする時は手袋を着ける、長袖に長ズボンなど感電を防ぐ服装を心がけましょう。こどもがいる家庭では、自宅の近所、帰省先、レジャー先など、出掛ける場所の近くに電気柵がないかを確認して、こどもを近づかせないようにしましょう。
続報 8月7日
警察への取材で、この柵を設置した男性が死亡したそうです。午前8時頃、自宅の庭で首を吊って自殺しているのを妻が発見したとのことです。
男性に悪意がなかったのは間違いありません。ですが、悪意が無くても自分のした事でひとの命が失われてしまうことの重さは耐えがたいものがあります。7月の時点で「死」という言葉を口にされていたようなので嫌な感じがしていました。まさか的中するとは。僕の奥さんは「私は生きていけない」と言っていました。僕も同じです。
悪意のない、ちょっとしたことで他人の命を奪ってしまうことがあります。車の運転然り、食中毒然り、火災然り。自分の安全は常に自分の周囲を注意すればいいのですが、自分がしたことは自分の体から離れたところで起きるため、一度手を離れると制御できません。何かことをする前には、それが安全な方法なのか、現在だけではなく、将来のことも考えてから行動に移さなければならにと改めて感じています。今回の事故で3名の命が失われました。この犠牲を無駄にしないように、同様の事件だけではなく、その他の事についても今まで以上に注意して行きたいと思います。
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