肺に吸い込んだ異物は蓄積され、将来の病気への砂時計を進めます
2019/06/13
私たちは健康な時は全く意識せずに呼吸をしています。風邪をひいたり、飲み込んだものが誤って器官に入ったりした時に呼吸を意識する程度です。脳や心臓と並んで最重要臓器のひとつですが、意識されないために酷使されているところがあります。
鼻腔や気管支を通過した異物は肺に残ります
空気中には様々な粒子状物質が浮遊しています。
- 工事現場から出る粉じん
- PM2.5
- ディーゼル排気微粒子
- 黄砂
- 綿ぼこり
- カビの胞子
粒子の大きさによって肺の奥まで到達する可能性が変わってきますが、通常は到達しない大きな粒子でも運動中で呼吸が激しい時など条件が揃えば肺の奥まで到達してしまいます。
そして、肺の奥まで到達した粒子は二度と肺の外に出ることはなく、蓄積される一方です。
肺胞に到達した異物が引き起こす過敏性肺臓炎
過敏性肺臓炎とは、異物の中でも、カビの胞子、たんぱく質などの有機物、化学物質を吸い込むことによって引き起こされるアレルギー性の炎症です。皮膚のアレルギーと同様に、何度か異物を吸い込んでいるうちに感作を起こし、その後に同じものを吸い込んだ時にアレルギー性の炎症を引き起こすようになります。この状態が長く続くと、肺が線維化を起こします。線維化を起こしてしまうと二度と元に戻ることはなく、異物を吸い込まなくなったとしても、咳や呼吸困難感で苦しみ続けることになります。
一般的な肺炎は肺胞内にウイルスや細菌を吸い込み、そこで感染が生じて引き起こされますが、過敏性肺臓炎は異物自体に毒性は全くなくても発症する恐れがあるため、粒子状物質が浮遊する場所に滞在する場合はマスクを着用するなどの対策が必要です。
職業で常にカビの胞子、たんぱく質などの有機物、化学物質に曝される人は、慢性過敏性肺臓炎という職業病にかかるリスクがあります。その職業に就いている人は知識もあり、対策もしていますが、知識がない方が、
- 近くに住んでいる
- 趣味などによって似た環境が出来てしまっている
などによって、慢性過敏性肺臓炎を発症する恐れもありますので、正しい知識を持って、必要な対策を行う必要があります。
職業性の慢性過敏性肺臓炎の例
- 農夫肺
- 養鶏家肺
- 塗装工肺
- キノコ栽培者肺
- 換気装置肺炎
などです。養鶏場に近くに住んでいたり、ペットとして小鳥を室内で飼っていたりすることで、鳥飼肺という慢性過敏性肺臓炎を起こす可能性があります。また、換気装置肺炎は清掃がされていない空調設備を使用している事務所で働く事務員がかかりますが、自宅でもエアコンの掃除を怠っていると発症する可能性があります。
古い木造家屋に入ると「おばあちゃんの家の匂い」がしますが、あれはトリコスポロンの臭いの可能性があります。トリコスポロンは、日当たりが悪く、風通しも良くない、湿気の多い木造家屋を好みますので、長い間空き家になっていた家の整理を行ったり、リノベートして住む場合は、胞子を吸い込まないように注意が必要です。
カビの胞子、たんぱく質などの有機物、化学物質を肺に吸い込むことは極力避けなければなりません。
じん肺にも注意が必要です
ウイルスや細菌を吸い込むと一般的な肺炎のリスクがあり、カビの胞子、たんぱく質などの有機物、化学物質などを吸い込むと過敏性肺臓炎や慢性過敏性肺臓炎のリスクがあります。しかし、それ以外の粒子状物質にも注意が必要です。
じん肺と言えば、
- アスベスト(石綿)
- ディーゼル排気微粒子
- 石工で出る粉じん
だけと思われている可能性がありますが、どのような粒子状物質でもある程度以上吸い込めばじん肺を起こす恐れがありますので、十分な注意が必要です。
じん肺の例
- 綿肺
- コルク肺
- 農夫肺
- 砂糖きび肺
- 線香肺
- 合成樹脂肺
- 珪肺
- 石綿肺
- 蝋石肺
- 滑石肺
- 珪藻土肺
- アルミニウム肺
- 酸化鉄肺(溶接工肺)
- 黒鉛肺
- 炭鉱夫じん肺
- 炭素肺(活性炭粉)
などです。非常に多くの物質がじん肺を起こします。
学校の先生は長い期間近い距離でチョークの粉を吸い込みます。チョークの原料の炭酸カルシウムは体内で溶けるためじん肺を起こさないと言われていますが、はっきりとしたデータが存在しないようです。メーカーはチョークの粉の粒子を大きくするなど、肺胞へ吸い込まれにくいような改良を加えていますが、注意した方が安全です。教室の一番前の席は粉が飛んできますが、量が少ないのと、期間が限られていますので、それほど神経質になる必要はありません。しかし、絶対に健康被害がないとも断言もできませんので、呼吸器系が心配な方は最前列を避けた方がいいでしょう。
肺へ異物が入るのを防ぎましょう
花粉症の季節はマスクが活躍しますが、それ以外はひどい風邪でもひかない限りはマスクは使いません。
ですが、これからは粒子状物質が多そうな場所へ行く時にはマスクを着用するようにしましょう。
- 幹線道路近く
- 大きな工場の近く
- BMXやモトクロスのレース
- 中国
- 砂漠
- カラーパウダーを使ったイベント(他の理由からも行かない方が安全です)
タバコを吸わないひとも、肺は常に危険に曝されています。
花粉症の発症が「コップに入った水」に例えられることがありますが、過敏性肺臓炎、慢性過敏性肺臓炎、じん肺も同じです。コップがいっぱいになった時に発症します。
大きなコップの人もいますし、小さなコップの人もいます。自分のコップの大きさは発症するまで分かりませんので、できる限りコップに水を入れないように注意しましょう。寿命が伸びていますが、コップの大きさは変わりませんので、高齢になってから肺に問題が起きる可能性が大きくなってしまいます。
日常全く意識することのない肺ですが、炎症を起こした時の苦しみは本当に強烈なものがあります。寿命を終えるまで肺を意識せずに過ごせるかどうかは、日常の心がけ次第です。
肺に入った異物は二度と体外に出ない
(溶けて吸収されるものは除きます)ことを忘れず、肺に異物が入らないように注意してください。
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