いじめ情報共有を怠ると懲戒処分 文部科学省が周知を検討
2019/06/12
いじめ情報の共有を怠った場合は懲戒処分もあり得ると周知
いじめに関する情報共有なんて、当たり前のことだと思いますが、実際にはいじめの相談を受けた担任教師が事案を抱え込んで、最悪の事態(こどもの自殺)を招いたケースも複数発生しており、文部科学省として動かざるを得ない状況に至ったようです。
文部科学省の有識者会議が、平成25年に施行された「いじめ防止対策推進法」の施行状況を検証していますが、その中で
学校内における情報共有が十分にされていない
という共通認識があり、いじめ防止対策推進法で義務づけられた学校内でのいじめに関する情報共有を怠った場合は、懲戒処分の対象になり得ることを周知することの検討を始めたことが明らかになりました。
ここで注意しなければならないのは、
懲戒処分の対象になり得ることを周知することの検討を始めた
だけであって、何も特別なことはありません。今までお咎めなしであったことを処分対象にすると決定したとかではなく、既に法律で定められていることを周知するに過ぎません。
そもそも公立学校の場合、教諭は公務員である訳で、いじめに関する情報共有を怠ることは地方公務員法上の懲戒処分となり得るのは当たり前の話である訳ですが、それを検討し始めただけで、
「現場が萎縮する。」
と懸念する声が挙がったと言いますが、残念な人達です。
ガンガン処分して見せしめにする
となら抵抗する気持ちも分かりますが、法律上定められていることを「周知」するだけで「現場が萎縮する」と言っているようでは何も変わりません。
今一度「いじめ防止対策推進法」を確認してみましょう
平成25年に施行された「いじめ防止対策推進法」ですが、この法律が施行されたことで何か変わった印象は受けません。相変わらず、学校は「いじめ」を認めることに消極的で、対応は重大事態が起きてから後手後手に動いている印象を受けます。(ただ、いじめ撲滅に全力を上げている学校があるのも事実ですが、このような学校はこの法律が施行されなくても対応していたかも知れません。)
(いじめに対する措置)
第二十三条 学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。
2 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。
3 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。
4 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。
5 学校は、当該学校の教職員が第三項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
6 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。
第23条は情報共有や報告などのいじめへの措置に関して定められていますが、6において所轄警察署との通報・連携が定められています。これをしっかり実行して欲しいです。
(校長及び教員による懲戒)
第二十五条 校長及び教員は、当該学校に在籍する児童等がいじめを行っている場合であって教育上必要があると認めるときは、学校教育法第十一条の規定に基づき、適切に、当該児童等に対して懲戒を加えるものとする。
(出席停止制度の適切な運用等)
第二十六条 市町村の教育委員会は、いじめを行った児童等の保護者に対して学校教育法第三十五条第一項(同法第四十九条において準用する場合を含む。)の規定に基づき当該児童等の出席停止を命ずる等、いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を速やかに講ずるものとする。
いじめた生徒への適切な対処がされているように思えません。
第五章 重大事態への対処
(学校の設置者又はその設置する学校による対処)
第二十八条 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
2 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
3 第一項の規定により学校が調査を行う場合においては、当該学校の設置者は、同項の規定による調査及び前項の規定による情報の提供について必要な指導及び支援を行うものとする。
文章にする場合の限界ですが、
- 心身又は財産に重大な被害が生じた
- 相当の期間学校を欠席する
赤字部分のような曖昧な表現が、悪意のある学校関係者によって都合よく使われてしまい、
- 重大な被害が出ていないと判断しました
- 相当の期間には該当しないと考えました
と逃げられます。
文部科学省がとりまとめた素案を有識者会議に示し、現在児童生徒に「重大事態」が生じた場合の調査の進め方について検証を行っており、近く文部科学省が
調査の進め方に関するガイドライン
を作成すると見られていますが、それだけではなく、「重大事態」に該当する事案はどんなものか、をもう一度練り直して頂きたいと思います。悪意のある教師・学校によって、
重大事態は無かった
とされてしまったことで、絶望した児童生徒が自殺し、最悪の「重大事態」を招くという馬鹿げた状態が改善されることを祈ります。
(私立の学校に係る対処)
第三十一条 学校法人(私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第三条に規定する学校法人をいう。以下この条において同じ。)が設置する学校は、第二十八条第一項各号に掲げる場合には、重大事態が発生した旨を、当該学校を所轄する都道府県知事(以下この条において単に「都道府県知事」という。)に報告しなければならない。
2 前項の規定による報告を受けた都道府県知事は、当該報告に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のため必要があると認めるときは、附属機関を設けて調査を行う等の方法により、第二十八条第一項の規定による調査の結果について調査を行うことができる。
3 都道府県知事は、前項の規定による調査の結果を踏まえ、当該調査に係る学校法人又はその設置する学校が当該調査に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のために必要な措置を講ずることができるよう、私立学校法第六条に規定する権限の適切な行使その他の必要な措置を講ずるものとする。
4 前二項の規定は、都道府県知事に対し、学校法人が設置する学校に対して行使することができる権限を新たに与えるものと解釈してはならない。
私立学校に対して、当該学校を所轄する都道府県知事に私立学校から報告がなされ、重大事態の適切な対処・解決に向けて都道府県知事が動いたことがあるのでしょうか。
そもそも「いじめ防止対策推進法」の第31条4には
4 前二項の規定は、都道府県知事に対し、学校法人が設置する学校に対して行使することができる権限を新たに与えるものと解釈してはならない。
と書かれていて、及び腰になっています。
私立学校法で私立学校は
治外法権
が認められているような状態であるため、万が一重大事態が生じた場合であっても、都道府県知事に報告されるような場合は無いでしょうし、仮に報告がされたとしても、都道府県知事は第6条に基づいて「報告書の提出を求める」のがせいぜいで、仮に提出が無くても罰則はありませんし、提出された内容に問題があってもどうすることもできないでしょう。
だって「私立学校」ですから。
(報告書の提出)
第六条 所轄庁は、私立学校に対して、教育の調査、統計その他に関し必要な報告書の提出を求めることができる。
出典:私立学校法
もし、私立学校から都道府県知事に報告があるとすれば、自殺があった場合だけでしょう。
自殺は確かに重大事態ですが、「いじめ防止対策推進法」の趣旨からは外れています。防ぐことが目的であり、事後報告を受けたところで、無くなった児童生徒の命は戻りません。
私立学校に対しても、都道府県知事に同じ権限を持たせてください
公立の学校の場合は、有識者会議で
いじめ情報の共有を怠った場合は懲戒処分もあり得ると周知
すべきかどうかが議論されるなど、非常に慎重にことが進められていますが、私立学校に通う生徒の保護がごっそり抜けています。
私立学校に通う生徒に関しても、公立学校と同様の対応をすべきです。
私立学校法は、
(この法律の目的)
第一条 この法律は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによつて、私立学校の健全な発達を図ることを目的とする。
出典:私立学校法
私立学校の健全な発達を図ることが目的であると書かれていますが、同じ条文にある「私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、」という部分によって健全な発達が阻害されてしまっています。
公立であっても、私立であっても、全ての児童生徒が安心して学校に通うことができるように、私立学校に関する部分も検証対象にして頂きたいと思います。
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