生物兵器級のボツリヌス毒素を無届けで運搬　化血研

2015/12/23 2019/06/12

熊本県熊本市の化学及血清療法研究所（化血研）は、血液製剤を４０年以上に渡って不正に製造していた事件で12月3日に厚生労働省の立入検査を受けたばかりですが、今度は生物兵器級のボツリヌス毒を無届けで運搬していたことが発覚し、12月21日に厚生労働省の立入検査を受けました。

0.1グラム以上のボツリヌス毒素の運搬には届け出が必要

ボツリヌス毒素、すなわちボツリヌストキシンは猛毒で、生物兵器製造に使用される可能性があるものです。そのため、運搬には都道府県公安委員会への届け出が義務付けられていますが、化血研では届け出をせずに、2007年10～12月、及び2015年10月の計4回無届けで運搬をしていました。

12月7日に化血研内部の「特定病原体等安全管理委員会」が今年の10月に発生した無届けの運搬を発見し、厚生労働省に報告をした上で、過去に遡って調査を行う中で発覚しました。一応内部チェック機構が機能をし始めているようで、それは安心しました。

ボツリヌストキシンの危険性

化血研では、ボツリヌス抗毒素製剤を製造しています。ボツリヌス菌が生成するボツリヌス毒素（ボツリヌストキシン）は、非常に猛毒で、自然界に存在する毒素の中では最強に当たります。

都道府県公安委員会への届け出が義務付けられている

がどの程度の毒なのかという点ですが、LD50（50％致死量）は体重70キロの人の場合、

A型毒素を静脈注射・筋肉注射：0.09 ～0.15マイクログラム
A型毒素を吸入：0.70～0.90マイクログラム
A型毒素を経口摂取：70マイクログラム

マイクログラムは、100万分の1グラムですから、一番効果が高い静脈注射・筋肉注射の場合を例に取ると

0.009マイクログラム＝9グラム/1000/1000000＝9/1000000000＝10億分の9グラム＝0.000000009グラム

1gのボツリヌストキシンが何人分の致死量（LD50）に相当するかというと

1グラム/0.000000009≒111111111.111人

約1億1千万人分に当たります。72グラムで地球上の人類全ての致死量になります。（LD50ですけど）

ただ、これは注射の場合ですので、効きが低い経口摂取の場合に変えると、

70マイクログラム＝70グラム/1000000＝7/100000＝10万分の7グラム＝0.00007グラム

1gのボツリヌストキシンが何人分の致死量（LD50）に相当するかというと

1グラム/0.00007≒14285.714人

経口摂取でも約14000人分の致死量に相当します。

ドラマの毒殺でよく使用される猛毒の青酸カリは、LD50が

3～7mg/kg（0.21～0.49mg：体重70キロの人の場合）

と言われています。

1gの青酸カリでは、

2.041～4.762人

の致死量にしかなりません。

いかにボツリヌストキシンの毒性が高いかが分かります。

これほど危険性が高いボツリヌストキシンだからこそ、運搬中に奪われてテロに使用されたりすることを防ぐために、事前に都道府県公安委員会への届け出が義務付けられている訳ですが、それを「届け出が必要な量かどうかの確認を怠った」というのは危機管理意識が低過ぎます。近く厚生労働省は化血研に対して行政指導をする予定とのことですが、他にも正すべき危険な行為があるはずですので、行政指導をもって一件落着にせず、継続的な監視をして欲しいです。

ボツリヌストキシンは医療や美容でも使われています

こんな猛毒ボツリヌストキシンですが、実は医療や美容では役に立っています。

「ボトックス」って聞いたことがありますか？女優さんなんかがシワを伸ばすために注射するあれです。あのボトックス注射、実は薄めたボツリヌストキシンなんです。初めて聞いた時には驚きました。

痙攣や斜視、脇汗を止める治療や顔のシワを取る美容に使われています。

致死量となる量を遥かに薄めてありますので、これで死亡することはありません。安心してください。

ただ、これらを製造する工場が襲われた場合は、ボツリヌストキシンがテロリストの手に渡り、生物兵器テロが起きる危険性があります。厳重な管理をされているとは思いますが、今回の化血研の不祥事を見ると不安になります。テロの危険性が以前とは違って来ていますので、厚生労働省も「1g以上の運搬は届け出を」という基準を見直して、生物兵器テロに使用される恐れがある物質の運搬には特別の基準を設けて欲しいと思います。