日本脳炎はウイルスを豚が増幅して蚊が媒介します
2019/06/13
日本脳炎という病名を聞いたことがない人はいないと思います。ワクチンがあることと日本脳炎ウイルスに感染しても殆どのひとは発症しない(100人から1000人の感染者の中で1人)ためか、余り心配されていない感があります。しかし、万が一脳症を起こした場合は有効な薬がないため、致死率が高い(20~40%)感染症ですので、ワクチンがあるとは言っても注意が必要です。一般には殆ど知られていませんが、日本脳炎には豚の存在が欠かせないことを知っておく必要があります。
豚とコガタアカイエカの間で維持されています
日本脳炎ウイルスを媒介するのはコガタアカイエカですが、コガタアカイエカの間で垂直感染はしません。コガタアカイエカが持つ日本脳炎ウイルスは一代限りで、常にウイルスに感染した豚が存在し、その豚の血を吸った蚊がウイルスを広げています。ウイルスは豚とコガタアカイエカの感染サイクルによって維持されています。
豚には定期的にワクチンを打っているにも関わらず、日本脳炎ウイルスを根絶できない理由は、
- ワクチンは初産母豚のみに流産を防ぐために接種される(ワクチンを打たれない豚がいます)
- 豚は肥育期間が短いために毎年数多くの未感染の子豚が生まれる
- 豚は感染すると血液中のウイルス量が多いため、その血を吸った蚊が感染し易い(人間の血中のウイルス数は多くなく、しかも一時的にしかウイルスが存在しないのが、人から人へ感染しない理由です)
今のところ、日本脳炎ウイルスが豚の体の中で増幅されていることは広く一般には浸透していませんが、今後、ワクチンを接種しない人が増え、感染者が増えるようなことがあれば、養豚への風当たりは相当のものを推測されます。恐らく1998年にマレーシアでニパウイルス感染が起きた当初、「養豚関係者が謎の脳炎で死亡」と大きく報道されたときのように、豚肉の需要が極端に減少するような状況になっても不思議ではないと思います。
出典:とっても危ない日本脳炎 – 日本養豚開業獣医師協会(JASV)
日本脳炎の発生は地域が限定されています
日本脳炎が発生するのは養豚が盛んな地域です。そのような地域では定期的に日本脳炎ウイルスの検査がされていて、国立感染症研究所より公表されています。
ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2015年速報第2報-(国立感染症研究所の該当ページが開きます)
ブタの日本脳炎抗体保有状況(地図情報)(国立感染症研究所の該当ページが開きます)
その中で、
しかし、ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では、ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。(中略)
それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し、日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては、日本脳炎の予防接種を受けていない者、とくに乳幼児や高齢者は蚊に刺されないようにするなどの注意が必要である。(中略)
日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し、接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種を受けることが望まれる。
出典:ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2015年速報第2報-(2015年7月27日現在)
ウイルスが活動していない地域でも過信は禁物です
日本脳炎ウイルスは豚がウイルスを増幅してコガタアカイエカが媒介すると上で書きましたが、実は豚以外の一部動物が媒介する場合があるので併せて注意が必要です。
日本脳炎に感受性がある動物は、
- 哺乳類(ウシ・ウマ・ヤギ・イヌ・イノシシ・キツネ・マウスなど)
- 鳥類(サギ・シチメンチョウ・ツル・ガンなど)
- 爬虫類(トカゲ)
これらの動物が関係して、養豚場から離れた場所のコガタアカイエカが感染し、ひとに日本脳炎ウイルスを媒介する可能性も否定できません。
また、コガタアカイエカは数キロから30キロ程度を移動すると言われています。30キロに関しては確証はありませんが、一晩で10キロ移動できることに関してはある程度確かな根拠がありますので、30キロ移動は馬鹿げた数値ではありません。養豚場や屠殺場が30キロ以内にある場合は特に注意が必要です。
日本脳炎は必要以上に恐れる必要のない病気ですが、一旦発症すると治療法がありませんので、必要性に応じたワクチンの接種やコガタアカイエカが活動する夜間の外出には長袖・長ズボンを着用し、肌が露出する部分には蚊避けスプレーなどを使って刺されないようにしましょう。
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