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ヒートテックなど吸湿発熱繊維は魔法の素材ではありません

      2019/06/12

実は大昔からあった吸湿発熱繊維

ユニクロのヒートテックで火が点いた発熱繊維ですが、実は昔から発熱する素材はありました。

それが何かと言えば

ウール

なんです。あと、コットンや麻も発熱します。

吸湿発熱繊維と言えば、ハイテク素材みたいなイメージがあって、それがヒートテック他の機能性繊維の売上を後押ししていますが、本当のところは有史以前から人が利用してきたことなんです。

汗を吸って暖かくなる吸湿発熱の原理

気化熱(蒸発熱)って知ってますか?

液体が蒸気に変わる時に奪う熱のことです。

温度の違いは、分子の振動の違いなんです。分子が大きく振動することが「熱い」状態で、分子が小さく振動することが「冷たい」状態です。

分子はお互いに結びつく力を持っていて、その力によって、

  • 固体(氷)
  • 液体(水)

になっています。氷のようにしっかり結びついている状態の分子に振動を加えると繋がりが切れて水になり、水の状態の分子に振動を加えると、結びつきが切れて飛び出し水蒸気になります。

別の言い方をすると、水分子が飛び出して水蒸気になる時に、必要な振動を周囲から奪っていくため、周囲の振動が減少します。振動が現象=温度が下がるこの現象を「気化熱」と言われます。

打ち水やミストはこれを利用したものです。ユニクロのエアリズムも、繊維が吸いとった汗を効率的に気化させることで気化熱を奪わせて、温度を下げるようにできています。

この気化熱(蒸発熱)の反対の現象が、

凝縮熱(吸着熱)

です。

液体の時の結びつきを切って飛び出した強く振動する水分子が、繊維に取り込まれて水に戻る時、水蒸気になる時に奪った振動(熱)と同じ量の振動(熱)を放出します。それを利用したものが、吸湿発熱繊維です。

繊維は、

  • 水を気化させる時に熱を奪うために冷える
  • 水蒸気を水にする時に熱を得るために温かくなる

特徴があります。

コットンも、ポリエステル、アクリル、ナイロン、レーヨン、ウールも全て同じです。ただ、水蒸気を水として取り込む能力に違いがあるだけです。その能力を繊維の公定水分率(水分吸収率)として%(条件:20℃、65%R.H.)で表しますが、

  • ポリエステル:0.4%
  • アクリル:1.3%
  • ナイロン:4.5%
  • コットン:8.0%
  • レーヨン:13.0%
  • ウール:16.0%

と繊維によって大きな違いがあります。

吸湿発熱機能の限界

皮膚から発散される水蒸気状の汗を繊維の中にとらえて、その振動(熱)を吸収する原理は、程度の差はあっても、どの繊維でも同じです。

アクリルやナイロンといった化繊は僅かな水分しか蓄えることしかできませんので短時間しか発熱することができませんが、ウールはより多くの水分を蓄えることができますから長い間発熱することができます。

でも、際限なく発熱することができる訳ではありません。

ウールは公定水分率(水分吸収率)が16%ですが、それを超えては水蒸気を捉えることは出来ません。水分でいっぱい(飽和)になってしまうと、

  • 蒸れる
  • 気化熱で冷える

などの弊害が起きてしまいます。

  • 「ヒートテックが暖かいのは最初の3分間だけ」
  • 「こどもにヒートテックは着せるな」
  • 「プロの山屋はヒートテックを着ない」

とか色々言われていますが、それはこの特性のためです。

とは言え、ヒートテックに限ったことでは決してなく、

どの繊維でも吸湿発熱効果はあるが、どの繊維も水分が飽和すれば蒸れるし、冷える

この事実を忘れてはなりません。

吸湿発熱性能ではウール最強説

化繊メーカーでは、公定水分率(水分吸収率)が低い化繊に如何に多くの水蒸気を捉えさせるかでしのぎを削っています。

  • ヒートテック(ユニクロ)
  • ブレスサーモ(ミズノ)
  • モイスケア(東洋紡)
  • ヒートファクト(イオン)
  • ボディヒーター(イトーヨーカ堂)
  • ジオライン(モンベル)

水分を保有しにくい化繊は、中空にしたり、極細繊維を束ねたりして、保有できる水分量を上げさせて、皮膚で吸いとった水分を繊維表面まで吸い上げて蒸発させることで、蒸発熱(気化熱)が皮膚に影響するのを防ごうとしています。

とは言え、薄い繊維と内側と外側で

  • 蒸発熱(気化熱)
  • 凝縮熱(吸着熱)

という正反対の科学現象を同時に起こさせるのには無理があり、多くの薄い吸湿発熱繊維では、ある程度の汗を吸ってしまうと、蒸れたり、冷えたりしてしまいます。

 

それがウールは化繊のように薄くできないというデメリットがありますが、逆にそれが内側と外側で同時に

  • 蒸発熱(気化熱)
  • 凝縮熱(吸着熱)

の同時発生を可能にして、暖かいけれど、蒸れないという優れた性能を実現しています。また、厚い繊維の中の空気の断熱効果も暖かさを保つ秘訣になっています。

でも、吸湿発熱性能では優れているウールですが、

  • 価格が高い
  • モコモコしてしまう
  • 洗濯などのケアが厄介

などのデメリットがあるのも事実です。それとウールを刈られる羊が虐待を受けているかも知れないという問題もあります。

吸湿発熱素材は、謳い文句に踊らされずに、色々試して自分に合ったものを選びましょう

今でも、これからも、様々な吸湿発熱素材が開発され、販売されると思います。

全ては凝縮熱(吸着熱)という現象を利用したものですが、繊維の素材・組み合わせ・形状・厚みによって、性格が異なるものに仕上がります。

繊維がそれぞれ異なるように、私達の皮膚も色々です。汗のかき方にも個人差がありますし、個人差だけではなく、年齢のよって変化もします。そしてTPOに応じて変化もします。ウールの下着は暖かいですが、ワイシャツやブラウスの下に着るには厚過ぎますし、満員電車が暖房がよく効いた食堂では苦しむかも知れません。

メーカーや販売元の謳い文句に踊らされることがないように、色々試して、自分に合ったものを選ぶのが一番です。

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